artscapeレビュー

ジャン=ルイ・トルナート「Between II, Bad Dreams」

2011年08月15日号

会期:2011/07/18~2011/07/31

PLACE M[東京都]

ジャン=ルイ・トルナートは1969年生まれ。1996年にアルル国立写真大学を卒業し、現在はパリを中心に活動している。2009年12月にも、PLACE Mで赤外線フィルムを使用して睡眠中の男女を撮影した「Between」シリーズを発表しているが、本展はその続編にあたる。ベッドで眠っている人の姿を定点観測的に撮影するというコンセプトに変わりはないのだが、今回はそれに「波動や煙、液体、亡霊のような形といった抽象的で奇妙な風景の写真」が付け加えられている。そのことによって、眠りの世界で、人間がいわば「気体化」して、ふわふわと宙を漂っているような感覚が強調されているようだ。まさに現実と夢の「中間(Between)にいる経験」の見事な視覚化といえるだろう。
これはまったく偶然なのだが、今月、吉行耕平の「The Park」に続いて、赤外線フィルムを使った作品を見ることができたのが興味深かった。むろん、デジタル的な処理を施しても同じような視覚的効果は得られるかもしれないが、目に見えない赤外線を感知することができるこのフィルムに写し出された世界は、被写体そのものが内側から発光しているような奇妙な生気に満たされている。闇の世界に分け入る手段として、さらなる可能性を孕んだ手法といえるのではないだろうか。
なおPLACE Mの階下のM2ギャラリーでは、トルナートのもうひとつの作品「Burned Land」が展示されていた。山火事にあった森を撮影したカラー写真のシリーズである。飛行機の残骸らしき物体が点在する黙示録的な光景もまた、「中間にいる経験」の表象化といえそうだ。

2011/07/26(火)(飯沢耕太郎)

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