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種村季弘の眼 迷宮の美術家たち

2014年11月15日号

会期:2014/09/06~2014/10/19

板橋区立美術館[東京都]

何とか会期に間に合って、最終日に「種村季弘の眼 迷宮の美術家たち」展を見ることができた。イメージの迷宮に遊ぶ「怪人タネムラ」の世界を堪能することができたのだが、あらためて強く感じたのは、種村は写真表現に対して強いシンパシーを抱いていたのではないかということだ。実際に展覧会に出品されていた写真作品は、ポスターやチラシにも使われていた今道子の「種村季弘氏+鰯+帽子」(2000年)をはじめとして、ハンス・ベルメール、鬼海弘雄、細江英公、さらに種村自身が蒐集した作品を並べた「奇想の展覧会──種村コレクション」のパートに展示された石内都、渡辺兼人のプリントなど、それほど多くない。とはいえ、彼の偏愛の触手が写真にも伸びていたことは間違いないと思う。
といっても、種村は現実世界をそのまま再現・描写するドキュメンタリー系の写真の仕事にはまったく興味がなかったのではないだろうか。柿沼裕朋が同展のカタログを兼ねた『種村季弘の眼 迷宮の美術家たち』(平凡社)で、「その好みは、はっきりしている。抽象よりも形のはっきりした硬質な画面とリアリズム、べたべたした情念よりも恐怖や不安を笑いに転化したような作品である」と述べているように、種村の「好み」は、まさに今や鬼海の写真がそうであるように、現実世界をくっきりとした白昼夢に変換してしまうような「硬質な画面」の作品に傾いていた。それは彼の著作でいえば『魔術的リアリズム メランコリーの芸術』(PARCO出版、1988年/ちくま学芸文庫、2010年)で扱われているドイツの「ノイエ・ザハリヒカイト」の画家たちの作品と共通する、細部までリアルに描写すればするほど魔術的、幻想的に見えてしまうような世界への志向ともいえるだろう。
残念なのは、種村が本格的な写真論を最後まで書くことなく亡くなってしまったことだ。「魔術的リアリズム」の系譜に連なる写真家たち、たとえばフレデリック・ソマーやマニュエル・アルバレス=ブラボについての論考を、ぜひ読んでみたかった。

2014/10/19(日)(飯沢耕太郎)

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