2021年11月15日号
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artscapeレビュー

荒木経惟「往生写集──東ノ空・PARADISE」

2014年11月15日号

会期:2014/10/22~2014/12/25

資生堂ギャラリー[東京都]

豊田市美術館、新潟市美術館と続いた荒木経惟の連続展の掉尾を飾るのが、この「往生写集──東ノ空・PARADISE(正式表記は「P」が反転)」。全力疾走してきた今年の荒木の活動を締めくくるのにふさわしい力作(すべて2014年に撮影)が、東京・銀座の資生堂ギャラリーの会場に並んでいた。
「東ノ空」(13点)は自宅のマンションから毎朝、夜明けの空を撮り続けている連作である。荒木の住む東京都世田谷区から見て東の方向には、いうまでもなく福島と東日本大震災の被災地がある。「空」は荒木にとっての根源的なテーマの一つであり、そのきっかけになったのは、1990年の愛妻、陽子の死だった。そのことからもわかるように、「空」の彼方には他界のイメージが投影されていることが多い。この作品の沈鬱なトーンにも、死者たちへの鎮魂の意味合いが込められているのだろう。
「PARADISE」(55点)は、これまで何度も撮影されてきた「楽園」シリーズのヴァリエーションである。例によって、枯れかけた花に人形(フィギュア)をちりばめ、ビザールでエロティックな箱庭のような空間を丁寧に構築している。人形に施された血のようなペインティングを見ると、ここでも死の影が画面全体を色濃く覆いはじめているようだ。
もう一つの新作が「銀座」(13点)であり、歩行者天国に群れ集う人々を撮影している。そういえば、荒木は電通に在職していた1960年代に、よく銀座に出かけて通行人をスナップしていた。だが今回の連作は、獲物に飛びかかるようにシャッターを切っていたその頃の写真と比較すると、肩の力を抜き、すっと受けとめるように群衆にカメラを向けている。後ろ姿とややブレ気味の人物が多い写真群に、どこか諦念にも似た雰囲気を感じてしまうのだ。
荒木の体調はあまりよくないと聞く。当人にその気はないかもしれないが、しばし休息してもいいのではないかと思う。

2014/10/26(日)(飯沢耕太郎)

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