artscapeレビュー
立木義浩「迷路」
2014年11月15日号
会期:2014/10/03~2014/11/03
Bギャラリー[東京都]
1937年生まれの立木義浩の同世代の写真家たち、たとえば淺井愼平や操上和美には、ある共通性がある。彼らのメイングラウンドは広告や雑誌の仕事なのだが、それとは別に切れ味のいいスナップショットをずっと撮り続けていることだ。これは一つには、日々の仕事の中ですり減ってしまう写真家としての感性に磨きをかける「眼の鍛錬」ということだろう。だがそれだけではなく、この世代の写真家たちにとっては、カメラを携えて街に出て、眼前の光景をスナップするという行為そのものが目的化しているようにも思う。より若い世代の写真家なら、そうやって得られたスナップショットを、再構築して作品化することを考えそうだが、彼らは多くの場合そうしない。街で採集されたイメージは、そのまま惜しげもなくまき散らされる。今回、新宿・Bギャラリーで展示された立木の「迷路」もまさにそんな作品だった。
会場に並んでいる40点の写真を見ると、とても健やかでポジティブな「見ること」の歓びがあふれているのがわかる。テーマ的にはかなり多彩な場面なのだが、立木が常に関心を抱いているのは、人のふるまい(多くは無意識的な)なのではないだろうか。それこそ、スナップショットの醍醐味というべきで、街中で捉えられた断片的な身振りの集積が、現実世界に対する肯定的なメッセージとして伝わってくる。以前から、立木の写真は何を撮っても「美しく」見えてくる所があったが、その傾向は70歳代を迎えてさらに強まっているようだ。
なお、展覧会に合わせて同ギャラリーから5分冊の写真集『Yoshihiro Tatsuki 1~5』が発売されている。
2014/10/07(火)(飯沢耕太郎)