artscapeレビュー
野村恵子「赤い水」
2014年11月15日号
会期:2014/10/22~2014/11/04
銀座ニコンサロン[東京都]
野村恵子の『Soul Blue ─此岸の日々』(shilverbooks、2012年)はいい写真集だった。折に触れてヌードを撮影してきた女性たちとのかかわりを縦糸に、父の死を含む日常の情景を横糸にして織り上げられた、叙事詩を思わせるイメージの連なりは、野村がデビュー作の『Deep South』(リトルモア、1999年)以来積み上げてきた写真の表現が、ほぼ完成の域に達したことを示していた。今回の展示は、その『Soul Blue』の達成を踏まえて、次のステージに向かうという意志表示を込めたものといえるだろう。
1998年に沖縄で撮影した「Kozue」という女性モデルは、いまは福井に住み、刺青師として活動している。彼女だけではなく、同性のモデルたちの生に寄り添いつつ、撮影をくり返していくことで、イメージの厚みがさらに増しつつある。今回の「赤い水」では、それに加えて、沖縄・今帰仁出身の野村の母親の、6歳と16歳の時のポートレートの複写が重要な意味を持っているように思える。つまり、野村自身を含めた女性たちの「身体という器に湛えられた赤い水」、つまり血の巡り、血の流れに象徴される結びつきが、より強く意識されはじめているのだ。
だが「ここ1年で撮影した写真が7割」という説明を聞いても、すぐには納得できないのはなぜだろうか。どうしても旧作が多いように見えてしまうのだ。おそらく、『Soul Blue 』とそれ以後の写真の選択と構成のあり方、つまりその「文体」があまり変わっていないからだろう。彼女が次の一歩を踏み出すためには、写真作品を構築していく「文体」そのものを大きく変えて行かなければならないのではないかと強く感じた。どうやら、野村も写真作家としてさらに飛躍していくための正念場を迎えつつあるように思う。
なお本展は12月11日~17日に大阪ニコンサロンに巡回する。
2014/10/26(日)(飯沢耕太郎)