artscapeレビュー
Summer Open 2010 BankART AIR Program
2010年09月15日号
会期:2010/07/30~2010/08/05
BankART Studio NYK[神奈川県]
前回の「Spring Open」がなかなか面白かったので、横浜のBankART Studio NYKのアーティスト・イン・レジデンスの作家たちのオープン・スタジオにまた出かけてきた。6~7月にBankARTに滞在、あるいは通って作品を制作していたアーティスト、45組の成果発表の催しである。学園祭的な乗りの作品もないわけではないが、相当にレベルの高い展示もあって、逆にその落差が普通の展覧会にはない活気を生み出している。
写真を使った作品ということでいえば、東京藝術大学美術学部先端芸術表現科の鈴木理策研究室による「私にも隠すものなど何もない」展に出品されていた、金川晋吾の「father」が気になった。「蒸発をくり返している」父親をモデルにする連作のひとつ。今回は家で何をすることもなく暮らしている父親にコンパクトカメラを渡し、セルフポートレートを撮影させている。生そのものに不可避的にまつわりつく澱のようのものが、じわじわと滲み出てきている彼の顔つきがかなり怖い。有坂亜由夢「風景家」も日常の恐怖をテーマとする映像作品。部屋の中の物が生きもののように少しずつ移動しつつ、その配置を変えていく様子をコマ撮りの画像で淡々と見せる。カフカが描き出す日常と悪夢との境界の世界の感触を思い出した。
別なのブースで展示されていた藤村豪、内野清香、市川秀之のコラボ作品「迷いの森」は夢を物語化して再演する試み。フランスパンを持った男女の儀式のような写真(「誰かの夢」を演じたもの)を見せて、その夢がどんなものだったかを想像して「誰かが見た夢の話」の物語を書いてもらうというプロジェクトだ。まだ、あらかじめ設定された枠組みを超えて、物語が野方図に拡大していくような面白さにまでは達していないが、写真、テキスト、パフォーマンスを組み合わせていく手法はかなり洗練されている。今後の展開の可能性を感じさせる作品だった。
2010/08/01(日)(飯沢耕太郎)