artscapeレビュー

細田雅春『文脈を探る どこへ行く現代建築』

2010年09月15日号

発行所:日刊建設通信新聞社

発行日:2008年7月26日

本書は、2004年1月から2008年4月まで『日刊建設通信新聞』で掲載された、細田雅春による時評をまとめたものだ。ゼロ年代に入り、『バリュー流動化社会』(2004)では、グローバルな資本主義の世界におけるバリュー流動化を指摘していたが、本書はその後に起きた社会の動向を受けた建築・都市論になっている。いわば、天声人語的な時評はクロニクルに並び、年の変わり目には、当時の状況を思い出せるよう、扉のページに社会の世相や事件の一覧を記す。いずれの文章にも共通しているのは、耐震偽装やサブプライムローンの問題や景観論、ときには展覧会など、具体的なトピックをとりあげ、そこから建築の話題を展開していくこと。建築家は単に商品を扱うパッケージデザイナーではないという。佐藤総合計画の社長だが(本書の刊行時は副社長)、細田が拝金主義的な都市開発やミニ開発を批判し、本来の都市のあり方を論じているのは印象的である。アトリエ系ではなく、大手の設計組織のトップだからこそ、建築に対する資本の影響をダイナミックに感じているのだろう。また、アルゴリズムは都市に貢献するか?など、若手の視線からのアーキテクチャ礼賛論ではなく、大人の視点から語っているのも興味深い。

2010/07/31(土)(五十嵐太郎)

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