artscapeレビュー
マン・レイ展 知られざる創作の秘密
2010年09月15日号
会期:2010/07/14~2010/09/13
国立新美術館[東京都]
マン・レイの展覧会はこれまで何度も開催されているが、300点を超えるという今回の展示の規模は最大級といえる。特に興味深かったのは、1930年代までのニューヨーク・パリ時代よりも、1940~51年のロサンゼルス時代や、1951~76年の晩年のパリ時代の方が展示の比重が大きくなっていることだった。これは今回の出品作品の多くが、4,000点以上というニューヨーク州ロングアイランドのマン・レイ財団のコレクションから選ばれているためだろう。ややうがった見方をすれば、マン・レイの最期を看とったジュリエット・ブラウナー夫人の関係者が牛耳るマン・レイ財団が、あえてキキ、リー・ミラー、メレット・オッペンハイムなどの、マン・レイの華麗な女性遍歴に関係する作品の出品を制限したと見えなくもない。
とはいえ、未見の作品が大量に出品されており、この万能のアーティストが、まさに花を摘んでは撒き散らすように、軽やかに、楽しみつつさまざまな分野の作品を制作していった過程がくっきりと浮かび上がってきていた。たとえば1950年代の、カラーポジフィルムの裏面に特殊な溶液を塗って「色彩の輝度を保ちつつ、絵のような質を」生み出す技法で制作されたプリントなどは、今回はじめてきちんと紹介されたものだろう。第二次世界大戦後は、あまり写真に興味を示さなくなったといわれるマン・レイだが、やはり同時期にはポラロイド写真の撮影も試みている。彼が最後まで実験的な写真家としての意識を持ち続けていたというのは嬉しい発見だった。
2010/08/26(木)(飯沢耕太郎)