2021年12月01日号
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artscapeレビュー

綿谷修「Juvenile」

2010年09月15日号

会期:2010/07/23~2010/08/25

RAT HOLE GALLERY[東京都]

綿谷修の前作の写真集『CHILDHOOD』(RAT HOLE GALLERY, 2010)は、「Amsterdam」「Hokkaido Hometown」「Boy at 12」「Capability」の4部構成で、写真家としての軌跡を辿り直そうとする意欲作だった。そのなかから、くっきりとひとつの水脈が浮かび上がってきたように思える。「Juvenile」、すなわち「幼いもの」「年少のもの」に対する写真家の偏愛である。その水脈は、今回のRAT HOLE GALLERYでの個展と、同名の写真集の発行によって、より強い流れとして見えてきたのではないだろうか。
「Juvenile」はいうまでもなく「失われたもの」の代名詞だ。それがひりつくような憧憬や、どうにも回復しようがない悔恨や追憶と結びつくことが多いのは、例えばラリー・クラークの「Teenage Lust」や「The Perfect Childhood」のシリーズを見れば明らかだろう。ところが、綿谷修の今回の展示からは、そのようなどちらかといえばネガティブな感情の傾きはほとんど感じられない。ウクライナで撮影されたという、水辺で屈託なく遊ぶ少年や少女たちに向けられた綿谷の視線は、大人が保護者としてふるまうようなものでは決してなく、むしろ同年齢、あるいはやや年下の弟のそれであるように見えるのだ。何の衒いもなく、慣れ親しんだ存在に対して向けられた、親密さとうざったさが混じり合った眼差し。逆に言えば、ここまで同じ目の高さに執着し続けることに、綿谷の覚悟を見ることができるともいえるだろう。あえて写真家としての成熟を拒否することによって、「Juvenile」の時期以外にはあらわれてこない、どこか痛みをともなった輝きが、写真にきちんと写り込んできている。

2010/07/31(土)(飯沢耕太郎)

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