artscapeレビュー

杉浦貴美子『壁の本』

2010年09月15日号

発行所:洋泉社

発行日:2009年9月3日

杉浦貴美子による、壁の写真ばかりを集めた本。「壁写真家」である杉浦は、ベルリンで見つけたある壁が抽象絵画のようだったことをきっかけに、まちで出会うさまざまな壁の写真を撮り始めた。それを集めたのが本書であり、まさに抽象絵画と言えるような、美しい壁写真が続く。「麻布十番」「千歳烏山」などの地名は書いてあるので、それだけでもその壁がどこにあるのか、想像力をかきたてられる。ごくごく普通の町並み、普通の建物の、しかもヒビや錆び、シミのたくさんある「傷んだ」壁から、これだけの美しい写真をたくさん切り取ることができることは、正直言って驚きである。写真だけではなく、壁コラムや壁素材についてのABC、そして壁鑑賞の方法の手順まで付いているのが、単なる写真集とは異なるところであり、この本のもうひとつの魅力と言えるところであろう。

2010/08/03(火)(松田達)

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