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artscapeレビュー

スティーブン・ギル「Coming up for Air」

2010年09月15日号

会期:2010/08/20~2010/09/26

G/P GALLERY[東京都]

スティーブン・ギルはイギリスの若手写真家。このところ急速に頭角をあらわしてきており、日本でも何度か展覧会を開催している。フットワークが軽く、豊富なアイディアを形にしていくセンスのよさが際立っており、特に限定版の写真集作りにこだわりを見せている。今回も、2008~09年に何度か日本に来て撮影したスナップショットをまとめた、4,500部の限定版(日本の感覚だとかなりの部数だが)写真集『Coming Up for Air』(Nobody)の刊行にあわせての展示だった。
都市の日常に網をかけてすくいとったような雑多なイメージの集積だが、薄い水の皮膜を透かして覗いたようなピンぼけの写真が多いのと、白っぽいハレーションを起こしたようなプリントの調子に特徴がある。展示の解説に「この本のタイトルは『断絶』ではなく、この狂ったような世界を泳ぎ生きる時の、適切な休止(coming up for air=息継ぎ)である」とあった。ギルにとってはフォーカスの甘い写真よりも、シャープなピントの写真の方が「再び潜る前の息継ぎを表現」しているのだという。
このような日常感覚、どこか真綿にじわじわとくるみ込まれていくようなうっとうしさから浮上して「息継ぎ」をしたいという思いは、日本の若い写真家たちも共有しているように思う。ギルの方がセンスのよさと勘所を抑える的確さを持ちあわせている分、現代日本の空気感をきっちりと捉えることができた。だが、むろんどうしようもないほどの高みにある表現ではない。日本の若い写真家たちも、もっと思い切りよく、一歩でも前へと踏み出していってほしいと思う。

2010/08/27(金)(飯沢耕太郎)

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