artscapeレビュー
2012年05月15日号のレビュー/プレビュー
石井香菜子 展──逃げ水のような
会期:2012/04/06~2012/04/15
ギャラリー零∞[東京都]
天井から窓枠のような白い枠がいくつか吊るされ、そこにビルの風景をプリントした半透明の紗のようなものがカーテンみたいに掛かっている。浮遊する窓のイメージは刺激的だが、鮮烈というほどではない。階下の銀座西欧ギャラリーでは石井を含めたグループ展「36.9℃」が開かれており、そこでも石井は写真と映像を出品。写真はベルリンの窓を撮ったもので、工事中のような内部とガラスに映り込んだ外の風景をダブらせている。映像は沖縄でのクルーズを撮ったもので、これも窓に映る陸の風景と海景が重なって見える。いずれも内と外、鏡像と実像との境界域に踏み込んだ作品。
2012/04/10(土)(村田真)
蕭白ショック!!──曾我蕭白と京の画家たち
会期:2012/04/10~2012/05/20
千葉市美術館[千葉県]
蕭白とその周辺の若冲、大雅、応挙らの作品を集めたもの。東博の「ボストン美術館展」では蕭白が目玉のひとつになっているので、それに合わせた便乗企画か。ほおあるある、《柳下鬼女図屏風》に《林和靖図屏風》に《寒山拾得図屏風》に《雪山童子図》……。やっぱり蕭白はすごい、キチガイだと思いながら出口に来て、でもなにか物足りないなあと考えてみたら、《群仙図屏風》がなかったことに気づいた。しまった見逃したと思って出品目録を見ると、会期後半にしか展示されないらしい。目録によれば全期間を通じて展示される作品は1割にも満たず、大半が会期中に展示替えされるそうだ。もういちど見に来いってか?
2012/04/10(火)(村田真)
吉田夏奈 展
会期:2012/04/02~2012/04/25
LIXILギャラリー[東京都]
ギャラリー中央に巨大な歪んだ楕円形のテーブルが置かれ、その表面に中心に行くほど濃い青が塗られ、端には緑が配されている。初め湖の地図かと思ったら、魚眼レンズで下からのぞいた山々の風景だった。かたわらには一辺が1メートル足らずの立方体が置かれ、上面を含めた5面にびっしりと樹木が描かれている。つまりこれ、森の立体絵。壁のコーナーには左右3枚ずつ計6枚のパネルにこんもりとした森の絵が。昨年、東京オペラシティのプロジェクトNに壁面いっぱいの絵を出していた人だ。この人のこだわりは、山や森のイメージを決して「1枚の絵」に収めないことだ。山も森も1枚に収められるほどケチなものではないと考えているのかもしれない。でも一歩間違えるとトリックアートに。
2012/04/12(木)(村田真)
伊藤時男「断章」
会期:2012/04/03~2012/04/13
コニカミノルタプラザ ギャラリーB[東京都]
伊藤時男は1980年代から「断章 Fragment」と題するシリーズを発表し続けている。これまで個展を6回ほど開催しているが、基本的なスタンスはまったく変わっていない。道を歩きながら目についた風景を、画面全体にピントが合ったパンフォーカスで切り取っていく。とりたてて変わったものが写り込むわけではなく、道端の植え込み、道路標識、舗道の白線、工事現場のフェンスなどが、雑然と画面のなかにひしめき合っている。唯一目を引くのは、時折写り込んでいる自分自身の影くらいだろう。だが、その切り取り方には細やかな神経と独特の美意識が働いており、この眺めをこの角度で見たかったという彼の意図が明確に伝わってくる。一見同じような場面に見えるのだが、それぞれに微妙な違いがあって、これはこれで現実世界の厚みと豊かさをきちんとさし示すシリーズとして定着しているのではないだろうか。
伊藤は1985~96年にかけて、ニューヨークを何度も訪れて、この「断章 Fragment」のシリーズを制作してきた。そのときは縦位置の写真が多かったのだが、最近は東京を中心とした撮影に移行し、横位置が多くなってきた。また今回、ずっと固執し続けてきた28ミリの広角レンズのほかに、50ミリの標準レンズにもトライしてみたのだという。
伊藤のこのシリーズが、まったく変わっていないようで、微妙に形を変えつつあることがわかる。コンセプトをきっちりと定めたライフワークであることに変わりはないが、緩やかに、彼の人生の軌跡と呼応するように、このシリーズもシフトしていくのだろう。逆に、これまでの作品を集大成した展示も見てみたいと思えてきた。
2012/04/12(木)(飯沢耕太郎)
鈴木諒一「郵便機」
会期:2012/04/12~2012/04/25
エモン・フォトギャラリー[東京都]
鈴木諒一は2011年度のエモン・ポートフォリオ・レビューのグランプリ受賞者。筆者を含む審査員(飯沢耕太郎、小松整司、大和田良、河内タカほか)が、最終審査に残った10名から、彼の「郵便機」のシリーズをグランプリに選んだ。東京藝術大学先端芸術科在学中という毛並みのよさ、抜群の映像センスとたしかな技術力、思考と言語化の能力の高さ──誰が見ても文句のつけようのない受賞だったと思う。
だが、今回の展示を見て、やや肩すかしを食ったような気分になった。作家であり郵便飛行機のパイロットでもあったサン・テグジュペリの軌跡を、映像によって辿り直すというコンセプトは鮮やかに決まっている。印刷物を、デストーションをかけて複写して、完璧な技術でイリュージョナルな旅を再構築してみせた。ところが、そこから浮かび上がってくる世界が、審査のときに見たポートフォリオ以上にはふくらまず、なんとなく小さくまとまっているように見えてしまうのだ。アクリルでプリントをサンドイッチするという展示の手法も、どことなくありきたりなものに見えてしまう。
往々にして、彼のように才能に恵まれた作家は、最初からあまり冒険をせず、まとまりやおさまりを最優先しがちだ。だが、それは諸刃の剣で、知らず知らずのうちに自らの潜在的な可能性を狭めてしまう。むしろ鈴木にとっては、次回の展示が正念場だろう。そこでは、自分でもコントロールがきかないような未知の領域にチャレンジしていってほしい。
2012/04/12(木)(飯沢耕太郎)