artscapeレビュー

2013年02月15日号のレビュー/プレビュー

勝倉崚太「ニッポン小唄」

会期:2013/01/11~2013/02/28

フォト・ギャラリー・インターナショナル[東京都]

勝倉崚太の新作「ニッポン小唄」は、北海道・阿寒湖のアイヌ村から沖縄・石垣島の辺野古の海まで、日本各地を旅して撮影した労作である。日本人がその土地に刻みつけてきた「歴史」のありようを、写真を通じて探り出すというその意図は真っ当だし、6×7判カメラにカラーフィルムという、いまではやや古風になってしまった撮影のスタイルであるにもかかわらず、軽やかで楽しめるシリーズに仕上がっている。しかし、見ていて何か物足りなさを感じるのはなぜだろうか。それぞれの場所を撮影した写真から、一枚しか選ばれていないということもあるのかもしれない。次々に眼に入っては移り過ぎていくそれぞれのイメージが、あまり強く記憶に残っていかないのだ。
勝倉は2009年に同ギャラリーで開催された個展「おはよう日本」でも、すでに同じような趣向の作品を発表している。これだけ続けても作品としての厚みを実感できないのなら、そろそろ撮影の姿勢や方法論を考え直すべきではないだろうか。展示作品のなかで最もインパクトが強かったのは、東京タワーの前に金縁のフレームに入った古い写真(母親が5歳のときの踊りの発表会で撮影されたもの)を掲げた一枚だった。「日本人の歴史」といった大きな、だがやや漠然とした枠組みよりも、勝倉自身の家族の個人史を手がかりに、制作活動を再構築した方が、よりリアリティのあるシリーズに育っていきそうな気がする。それぞれの場面に対するこだわりを、もっと強く打ち出していってほしい。

2013/01/25(金)(飯沢耕太郎)

阿部淳「市民」

会期:2012/12/15~2013/02/02

The Third Gallery Aya[大阪府]

大阪を拠点にストリートスナップを撮り続けてきた阿部淳の個展。1970年代後半から80年代前半にかけて撮影された、「市民」というシリーズのモノクロプリントが展示された。当時の大阪の風景と人々の表情の生々しい臨場感に迫力を感じる写真で目も足も作品の前で釘付けになってしまう。労働者たちや子どもといった人々の声や周囲の喧噪までも聞こえてくるような魅力に満ちた写真だった。

2013/01/26(土)(酒井千穂)

森本絵利 展

会期:2013/01/22~2013/02/09

SAI GALLERY[大阪府]

画面に細かいドットを無数に点描した平面作品や、細かく切った紙の輪を繋いだ小さなオブジェなどの作品が展示されていた。じつに、目を見張る繊細で緻密なそれらの仕事ぶりにも感心してしまうのだが、さらにそのような制作をしている作家自身へ興味が掻き立てられていくから面白い。会場には「正」の字を並べた表も一緒に展示されていた。無秩序に見えるものや不規則に思えるものの反復、複雑な規則性にアプローチする森本絵利。「正」の字は描いたドットの数なのだろうとその場では推測したのだが、しかしそれにしては画面のドットは多すぎる。それに後で気がついてやっぱり聞いてみれば良かったと後悔。

2013/01/26(土)(酒井千穂)

答島惣太「TIME 8 closed circle──クローズド・サークル」

会期:2013/01/22~2013/01/27

KUNST ARTZ[京都府]

ギャラリー入口のドアを開けると一瞬戸惑う。一見何も展示されていない空間なのだ。実際、展覧会の会期中ではないのだと思ったのだろう、入口できびすを返して帰ってしまった来場者もあったと聞いたのだが、じつはこの展覧会は、奥のサブルームに展示された8枚のサンドペーパーの「絵画」を手がかりに、それらで削られた痕跡をメインルームの壁面や床から探し出すというサイトスペシフィック作品。会場では作家がヤスリをかけたときの作業中の音も再生されていた。紙ヤスリに残る摩耗の状態や色の跡から削られた場所のすべてを見つけるのには苦戦してしまったが、見る側の意表を突くユニークな表現と鋭いセンスが光る個展だった。1988年生まれで、現在、京都造形芸術大学大学院に在籍中という答島惣太。今後の活躍が楽しみだ。

2013/01/27(日)(酒井千穂)

アーツチャレンジ2013

会期:2013/01/22~2013/02/03

愛知芸術文化センター[愛知県]

愛知芸文センターにて、アーツチャレンジ2013を見る。今年は少し作品の数が減り、地下の吹抜けも展示場所として使われていないので、全体としてややこじんまりとした印象を受ける。とはいえ、やはり若手発掘のプロジェクトは重要なものであり、いまにして思えば、先行して始まったアーツチャレンジもあいちトリエンナーレへの小さなステップだったと思う。さて、今回の展示では、住宅情報を暴力的に再編集したユートピアを提示する伊奈章之、昭和のノスタルジーを喚起する屋台と本人自身を展示する菅沼朋香、そして壁紙と絵画が不思議な関係をつむぐ鈴木紗也香が印象に残った。また前回のあいちトリエンナーレに参加した戸井田雄も、屋外階段脇のスペースで土を掘る映像を出品している。

2013/01/27(日)(五十嵐太郎)

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