artscapeレビュー

2014年02月15日号のレビュー/プレビュー

小瀧達郎「PARIS 光の廻廊2010-2013」

会期:2013/11/20~2014/01/18

gallery bauhaus[東京都]

小瀧達郎の10年ぶりの新作展は、とても贅沢な展覧会だった。2010年から13年まで、4年間何度もパリを訪れて撮り続けた写真群は、「パリ写真」の典型と言ってよい。「パリ写真」というのは今橋映子が『〈パリ写真〉の世紀』(白水社、2003)で提起した概念で、アジェ、ブラッサイ、ドアノー、イジスらがパリを舞台につくり上げてきた、情感のこもった街と人間の写真を示す。21世紀の現在においては、パリを、伝統的な「パリ写真」の雰囲気を保って撮影すること自体がかなり贅沢なことと言える。それに加えて、小瀧は撮影とプリントのスタイルも、徹底してクラシックなものにこだわり続けた。カメラはライカM6、レンズはヘクトール50ミリ、75ミリ、タンバール90ミリ、ズミルックス35ミリ、50ミリ、モノクロームの印画紙は現在では最高品質と言えるチェコ製のFOMAである。結果として、40点あまりのプリントは、香気漂う高級感を立ち上らせる見事な出来栄えとなった。
現代のパリをベル・エポック風に再現するために、カメラアングルにも工夫を凝らした。主な被写体はポスター、壁画、彫刻、ショーウィンドーの中の商品などだが、それらの一部をクローズアップして切り取っている。余分な要素をカットすることで、あえて「パリらしさ」を強調するイメージだけを、コラージュ的に再構築するやり方を選びとったのだ。画面はすべて縦位置。これも、横位置の広がりのある画面だと、余計なものが写り込んでくるからだろう。写真の詐術と言ってしまえばそれまでだが、気持ちに余裕のあるベテラン写真家だからこそ実現できた贅沢な写真行為の集積と言える。

2014/01/08(水)(飯沢耕太郎)

モイラ嬢のための9つの変奏曲

会期:2014/01/08~2014/01/25

神保町画廊[東京都]

「口枷屋モイラ」という名前で、コスプレやオブジェ制作など、多方面で活動している謎の女性、モイラ嬢をモデルに10人(9組)のアーティストが共演したコラボレーション展である。ギャラリーの企画力が充分に発揮され、なかなか面白い展示になっていた。中島圭一郎、伴田良輔、フクダタカヤス、村田兼一、村田タマ、渡邊安治は写真作品を、武井裕之とオオタアリサは写真とイラストの合作を、三嶋哲也は本格的な油画の肖像画を、上野航はストッキングを使ったオブジェ作品を出品していた。
このような実在のモデルを共通のテーマとするような展覧会の企画は、ありそうでなかなかないのではないだろうか。展示が成功したのは、ひとえにモイラ嬢の千変万化するキャラクターによるところが大きい。純真無垢な女生徒から妖艶な魔性の女までを、コスプレとメーキャップを駆使して演じ分ける変身能力の高さに、それぞれのアーティストが全身全霊で反応することで、彼らのいつもの作品とはひと味違ったテンションの高さが実現した。同じモデルとは思えないほどの表現力の幅の広さを、たっぷりと愉しむことができる。こうなると、この企画を一度で終わらせるのはもったいない気がしてくる。アーティストの顔ぶれを固定するとマンネリ化してくるので、違うジャンルの人たちにも声をかけて、さらに多人数のコラボレーション展を実現してほしい。平面作品のヴィジュアル・アーティストだけでなく、映像作家や言葉の表現者にも参加してもらうと、面白い広がりが期待できそうだ。

2014/01/08(水)(飯沢耕太郎)

フィールド・オブ・ペインティング

会期:2014/01/04~2014/01/10

東京都美術館ギャラリーC[東京都]

なんか60年代の美術を思い出した。新しい絵画を追求しようとすれば必然的に過去に戻っていくような、ねじれ現象。

2014/01/09(木)(村田真)

富士をみつめて

会期:2014/01/04~2014/01/16

東京都美術館ギャラリーB[東京都]

富士山の世界文化遺産登録を記念するコレクション展。安東聖空の《富士》と《不二》など書を中心に、北斎の《冨嶽三十六景》、広重の《名所江戸百景》、森山大道や石川直樹の写真など。福田美蘭の絵も2点もあって、しかも2点とも昨年の個展に出てなかった作品。そのうち《南フランスのホテルの富士山》はホテルのロビーを描いたもので、富士山なんかどこにも見当たらないが、よーく見ると照明カバーが台形になっていたりする。これか? あとは風呂屋のペンキ絵も見たかったなあ。都美はコレクションしてないか。

2014/01/09(木)(村田真)

佐藤一郎 退任記念展

会期:2014/01/06~2014/01/19

東京藝術大学大学美術館3階[東京都]

佐藤一郎の名前はぼくが美大生だった70年代から聞いていた。クラスメートに仙台出身者が3、4人いて、彼らが畏敬すべき先輩として、また新進画家としてウワサしてたのを耳にしていたからだ。カタログで調べてみると、当時佐藤はまだ20代で西ドイツに留学中だったが、少なくとも宮城県出身の美大生のあいだでは伝説的存在だったらしい。その後、彼が著した油彩画の技法書を読んだりしたが、その作品はほとんど見る機会がなかった。だから今回が初めてのはずなのに、なぜか40年ぶりに友人と再開するようななつかしさを覚えた。作品は家族の肖像を中心とする身近な日常的主題と、仏像や花、滝の風景など日本的主題に大きく分けられるが、どれも色彩は調色を誤ったように彩度の差が激しく、そのため人物も風景も非現実的に映る。これがウワサの佐藤一郎だったのか、と40年ぶりに納得。それにしても、エントランス正面に40枚近い石膏デッサンを貼り出したり、子どものころの絵まで見せたりして、さすが芸大一筋、絵画一筋。リッパだと思う。

2014/01/09(木)(村田真)

2014年02月15日号の
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