artscapeレビュー

2014年02月15日号のレビュー/プレビュー

第29回梓会出版文化賞 贈呈式

日本出版クラブ会館[東京都]

日本出版クラブ会館で行なわれた第29回梓会出版文化賞の贈呈式に出席した。出版社の活動を顕彰するもので、上野千鶴子、斎藤美奈子、外岡秀俊、竹内薫らとともに審査を担当した。梓会出版文化賞は童心社、同特別賞は赤々舎と深夜叢書社。今年は五十嵐が全体の講評を担当したので、以下にアートとも関わりをもつ童心社と赤々舎の部分を抜粋する。「童心社は、1957年に創立し、長きにわたり、児童図書、紙芝居、絵本を出版してきました。ネットの時代において、本でしかできない手と紙のインターフェイスを大事にしています。……注目されたのは、アーサー・ビナード『さがしています』と、日・中・韓平和絵本のシリーズ。前者は時計や軍手など、広島で被爆したモノたちが失われたものを探すというユニークな語り口の本。また太平洋戦争をテーマとする三か国共同出版の後者は、それぞれの言語で刊行する企画で、絵本史上初の試み」。「赤々舎はまだ若い出版社ですが、すでに写真集を中心に、現代美術に関して存在感のある本を刊行してきました。志賀理江子による二冊の本と、大竹昭子の『NY1980』は、写真家がなぜ撮るのかというテキストと、写真集が組合わさったものです。海辺の集落に移住した後、津波で被災した志賀は……仙台の個展で奇蹟的な写真の空間を実現しました。一般的に展覧会の書籍化は難しいですが、地霊に触れた自身の経験と思考を搾りだすように語る写真論としての本と、大判の写真集に収められ、新しい命が与えられました。さらにネットにはできない良質のブックデザインが、希有な本に輝きを与えています」。

2014/01/16(木)(五十嵐太郎)

日下部一司 展

会期:2014/01/06~2014/01/18

Oギャラリーeyes[大阪府]

カメラの円形ファインダーを覗くイメージで丸く切り取られた写真や飛行機が印刷された切手を「引き縮め」したというとても小さな写真、ストライプの生地を五角形のパネルに張りつけ平行線の歪みを示した作品、樹脂塗料が琥珀色に盛り上がり平面が歪む鏡、いびつな器に箸を添えたオブジェなど、じっと見ているといろいろな連想に誘われていく展示作品が並んでいた日下部一司展。普段「こういうもの」と措定してしまうものの存在感や意味、それらのイメージという認識に働きかける、さりげないウィットと発想が愉快で楽しくつい長居した。寒くて縮こまる身体と鈍った頭にも刺激が与えられ、活力が戻った気分にもなったのが嬉しく、アートって素敵だとあらためて思った展覧会。

2014/01/18(土)(酒井千穂)

沼田学「界面をなぞる2」

会期:2014/01/10~2014/01/22

新宿眼科画廊スペースM[東京都]

沼田学は、2012年12月に同じ新宿眼科画廊で「界面をなぞる」と題する、白目を剥いた男女のポートレート作品による写真展を開催した。今回の展示はその続編というべきものだが、前回が20点ほどだったのとくらべて107点に数が増えている。このテーマが彼のなかでさらに醗酵し、深められてきているということだろう。
白目を剥くという状態は、普通は日常から非日常への移行の過程で起る現象である。ということは、沼田の言う「界面」とはその境界線と言える。彼はまさに、こちら側とあちら側の間に宙吊りになった状態を、モデルたちに演じさせているのだ。だがそれだけでなく、このシリーズではモデルたちを取り巻く環境──とりわけ彼らの部屋のあり方が大きな要素となっているように感じる。部屋をその住人の存在を表象する空間として捉えるアプローチは、都築響一の『TOKYO STYLE』(1993)、瀬戸正人の『部屋』(1996)など、多くの写真家たちによって試みられてきた。それらはいま見直すと、それぞれの時代の状況を鏡のように映し出しているように見える。沼田のこのシリーズもまた、2010年代の東京を中心とした都市の住人たちの居住空間のあり方を、的確にさし示しているのではないだろうか。
それはひと言で言えば、過剰なほどの情報空間ということだ。モデルにアーティスト、ミュージシャン、アクターなどの表現者が多いことも影響しているのかもしれないが、われわれの日常空間にさまざまな記号が溢れ、ひしめき合っている様が、写真に生々しく写り込んでいる。

2014/01/18(土)(飯沢耕太郎)

武蔵野美術大学建築学科建築祭2014 第一部 第10回芦原義信賞・竹山実賞 表彰式

武蔵野美術大学 8号館308講義室[東京都]

武蔵野美術大学にて、審査委員長を担当した芦原義信賞(建築の卒業生を対象とする)の授賞式に出席した。第10回では、伊坂道子と鈴木紀慶が受賞した。この日は、いつも卒業設計や修士設計の展示が行なわれている時期で、上下の同窓生がつながるいい機会になっている。全学でも修了制作展を開催中で、とにかく美大はにぎやかだ。以下に総評を抜粋する。「今回は伊坂道子と鈴木紀慶が著作を軸とした業績で選ばれた。鈴木は住空間に関わる編集と執筆を長く継続し、特に『日本のインテリアデザイン史』は、これまでほとんど通史的に語られることがなかったインテリアデザインの分野にとって画期的な本である。……また伊坂は増上寺旧境内の調査と景観の保存活動を粘り強く手がけ、博士論文をもとにした研究書を刊行した。二名とも以前から芦原賞に応募していただいたが、2013年はそれぞれにメルクマールとなる仕事を成し遂げ、今回が受賞すべき絶好のタイミングだと思われる」。

2014/01/18(土)(五十嵐太郎)

プライベート・ユートピア──ここだけの場所

会期:2014/01/18~2014/03/09

東京ステーションギャラリー[東京都]

ブリティッシュ・カウンシル・コレクションにみる英国美術の現在、というのがサブタイトル。ブリカンがエライのは、10年にいちどくらい日本にイギリス現代美術を紹介していること。日本も見ならってほしいなあ。出品作家は60年代生まれが大半を占め、90年代なかばにアートシーンを騒がせたYBA(ヤング・ブリティッシュ・アーティスツ)と重なり、半数以上がターナー賞を受賞したりノミネートされたりしたという。が、デミアン・ハーストやレイチェル・ホワイトリードは出ていない。おそらく以前に出たか、高すぎてコレクションできなかったかだ。さて肝腎の作品だが、ピンからキリまで取りそろえてある。もともとイギリス現代美術というと、ウィットに富んでるけどそれ以上でなかったりするのだが、その傾向は近年ますます進んでいて、たとえばウッド&ハリソンの映像やアンナ・バリボールの光を使ったインスタレーションみたいに、だからなんなんだといいたくなるような作品も少なくない。逆によかったのは、陶器の表面に男性器をめぐる物語絵を描いたグレイソン・ペリー、ひとりのプロレスラーの人生をポップな壁画と映像で表わしたジェレミー・デラー、だれのものかもわからない写真を拡大してキャンバスに描くローラ・ランカスターなどだ。

2014/01/19(日)(村田真)

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