artscapeレビュー

2009年03月15日号のレビュー/プレビュー

津田直 写真集『SMOKE LINE』刊行トークショー

会期:2009/02/01

青山ブックセンター本店[東京都]

トークの出演を依頼されたので、喜んで出かけてきた。津田直とは初めて話すのだが、ほぼ予想通りというか、言葉を的確に選んで話す能力がとても高い。小学校4年から、「学校に行ってもしょうがない」と自分で決めて、不登校になってしまった。17歳まで危ない仲間たちと付き合ったり、音楽の道に進もうとしたり、かなりの回り道の末に写真に辿り着いた。その過程で、人間を含めた森羅万象に対するコミュニケーション能力に磨きをかけたということだろう。32歳という年齢の割には密度の濃い人生を歩んできた、その蓄積がいまの仕事に結びついていることがよくわかった。
もう一つ、これも予想通りといえば予想通りなのだが、津田の母親はシャーマン的な資質の持ち主で、彼自身にもその血が色濃く流れているようだ。トークの後半で、これまでずっと私淑していた導師が亡くなった日にモンゴルに旅立つことになっており、飛行機が遅れたため葬儀の間日本に留まったあとでモンゴルに向かうと、そこで出会ったOdjiiというシャーマンに「お前を待っていた」といわれたという話をしてくれた。このOdjiiは津田が帰国した直後にこの世を去った(「煙になった」)のだという。こういうオカルト的な話は、彼の周りでは頻繁に起こっているようだ。先に津田の写真について、「21世紀のシャーマニズム」という言葉を使ったのだが、その直観は正しかったということだろう。
こういう人はシャーマン=アーティストとしての道をまっとうするしかないと思う。自然と人間の社会の接点に立ち、その両者を「くっつける」役割を果たすということだ。そのぎりぎりの営みを見守っていきたい。

2009/02/01(日)(飯沢耕太郎)

倉田精二「都市の造景 ENCORE ACTION 21 around MEX」

会期:2009/01/23~2009/02/28

プンクトゥム・フォトグラフィックス・トウキョウ[東京都]

1970年代から都市の路上を疾走し、惚けたような表情のままふらふら漂っている住人たちの姿を、鮮烈な悪意を込めて写しとってきた倉田精二。彼は2000年代に入ると、首都高速道路建設現場を大判カメラで撮影しはじめた。今回は2008年4月、エプサイトでのカラー作品の展示に続いて、モノクロームの連作を発表している。
倉田がなぜ道路建設現場にこだわり続けているのか、もう一つ釈然としない。あの緊張感あふれる路上のスナップを知る僕らには、人の姿が消えてしまった風景にはどうしても馴染めないからだ。だが倉田がある「断念」の思いを抱え込みつつ、このシリーズに向き合っていることは間違いないだろう。展示に寄せた「ご案内」の文章で、彼はこんなふうに記している。
「タイトルにある『造景』は、フランスの文学と社会学者が東京経験と近代以降に世界各地で肥大化する大都市化を眺めた際の命名を模倣して失敬した。この造語が目指すべきモデルがどこにも無い事態は、技術史ばかりか文明の転回期にふさわしい。[中略]残る問いは、いかに精密に模倣して自己自身とレンズの向うの対象を同時一体化して止揚せしめ、なおもvisionを望見し得るかであろう。」
「技術史ばかりか文明の転回点」にもっともふさわしい眺めが、道路建設現場ということなのだろうか。たしかに、そのガラクタを寄せ集めたような光景と、印画紙をざっくり切ってピンナップしたチープな展示は、しっくりと溶け合って面白い効果をあげていた。
彼の「vision」がどう展開していくのか、もう少し見てみたいと思う。

2009/02/04(水)(飯沢耕太郎)

石川真生 写真展「Laugh it off!」

会期:2009/01/30~2009/02/28

TOKIO OUT of PLACE[東京都]

奈良で地道な活動を4年間続けてきた写真ギャラリー、OUT of PLACEが東京・広尾に進出してきた。この大変な時期に思い切った決断をしたものだが、観客の入りはスタートとしては悪くないようだ。
第一弾は沖縄の“女傑”石川真生の展示である。一九七〇年代以来、体当たりで沖縄の現実に対峙し続けてきた彼女は、腎臓癌、直腸癌の手術後、セルフポートレートを撮影しはじめた。手術痕や人工肛門が生々しく写り込んだそのシリーズには、降りかかる苦難を笑い飛ばしつつ、クールに自分の体を見続けていこうという強固な意志があらわれている。近作はなんとカメラ付き携帯で撮影したセルフポートレート。そのスカスカの質感、微妙に狂った色味が、思いがけないほどリアルに、彼女の「いま」を浮かび上がらせる。
会場には1986年の「Life in Philly」(89枚)と88年の「Filipina」(48枚)の連作も、壁いっぱいにピンナップされて展示してあった。セルフポートレートとは対照的に、気持ちよく目に飛び込んでくるモノクロームのドキュメンタリーだ。米軍基地にいた黒人兵士を故郷のアメリカ・フィラデルフィアまで訪ねて撮影した「Life in Philly」、金武町の外人バーで働くフィリピン人ホステスたちを追った「Filipina」とも、石川の被写体の側に踏み込みつつ、きちんと節度を保つ姿勢がしっかりと刻み込まれている。まるで戦場カメラマンのような距離感。彼女を取り巻く沖縄の現実がそれだけ苛酷だったということだろう。

2009/02/04(水)(飯沢耕太郎)

松本秋則展──タイオン演奏会

会期:2009.1.27~2009.2.5

ストライプハウスギャラリー[東京都]

タイオンとはギリシア神話に登場する風の神で、通りすぎるときシャラシャラと音をたてる……というのはウソで、体温のこと。天井から例によってアナログなサウンドオブジェが吊り下がっているのだが、今回は風でも電気でもなく、その下に立った人の体熱で起きるわずかな上昇気流で装置を回転させ、音を出すという。実際に立ってみたら、数秒後に装置がゆっくりと回転を始めた。ぼくはほかの人よりよくまわるみたい。別に体温が高いのではなく、新陳代謝が激しいのだそうだ。そのまわり方や音でその人の体調がわかったりしたらスゴイというか、まったく別の装置になってしまうわね。ともあれそんな期待というか心配というかをかけさせるほど、松本氏は境界線を突っ走っている。

2009/02/04(水)(村田真)

「さて、大山崎」山口晃 展

会期:2008.12.11~2009.3.8

アサヒビール大山崎山荘美術館[京都府]

のぞみで京都に出て、在来線で山崎へ。地理的にも歴史的にもネタに事欠かない大山崎に取材した山口の個展。《惟任日向守》《羽柴筑前》《千宗易》はそれぞれ地元ゆかりの明智光秀、豊臣秀吉、千利休の肖像画。秀吉の兜は栓抜きか。大作《最後の晩餐》では明智光秀ら武人が食卓を囲む。よく見ると、ワインやキッコーマン醤油も並んでる。いやアッパレ、あきれるほど見事。なにも考えずに見れば、桃山の重要美術品といわれてもうなずいてしまいそう。ビミョーなのは新館の「壁面見立」シリーズ。コンクリート打放しの壁の模様に「大鰐」「香炉峰」「沢蟹」などのパターンを見出し、スポットライトを当てて作品としている。さすがに新館まで新作で埋めきれなかった苦肉の策かと同情しかけたが、待てよ、これこそ大山崎ならではのサイト・スペシフィック絵画ではないか。先客のモネや安藤忠雄ともコラボしてるし。と感じ入ったしだい。

2009/02/05(木)(村田真)

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