artscapeレビュー
2009年03月15日号のレビュー/プレビュー
東京綜合写真専門学校学生自主企画卒業展 カミングアパート
会期:2009/02/17~2009/02/22
横浜市民ギャラリーあざみ野[神奈川県]
2~3月は「卒展」のシーズン。各大学の写真学科、写真専門学校の卒業生たちが、都内や近県の会場で展覧会を開催する。ほとんどは総花的に卒業制作を展示するだけなのだが、最近は出品者を絞り込んで選抜展にしたり、テーマを設定したりする動きも出てきた。その中でも、この東京綜合写真専門学校の「カミングアパート」展は、「学生自主企画卒業展」ということで異彩を放っていた。
東京綜合写真専門学校がこの形の「卒展」を開催するようになったのは4年ほど前からで、普通の選抜展は六本木・ミッドタウンの富士フィルムフォトサロンで開催し、横浜市民ギャラリーあざみ野のかなり広いスペースを学生有志に開放している。今回は昼間部、夜間部合わせて40名の卒業生が「自主企画卒業展」の方に参加した(両方に出品している学生もいる)。その棲み分けは、今のところうまくいっているようだが、どう見てもあざみ野の展示の方に活気があるように感じられる。
今回特に目立ったのは、写真以外の展示。イラストレーション(阿部萌夢、大川[寳田]苗、長田水記、清水玄)、インスタレーション(若木里美、chaka[波多野康介、嘉義拓馬])、映像(上田朋衛、遠藤優貴、大町碧)などの作品は、発想が豊かで質も高い。写真学校の学生なのにそれでいいのかという話になりそうだが、もはや写真専門学校だから写真だけをやっていればいい時代ではないのだろう。ただしこれはむろん諸刃の剣。むしろ職人的な高度な専門性が、閉塞感を打ち破り、道を切り拓くという可能性も充分に考えられるからだ。正統派の写真作品として面白かったのは大塚広幸「DROPPED IN IRON HEAD」、桑代のぞみ「あいまい」、竹下修平「怠惰なプール」といったところか。
2009/02/20(金)(飯沢耕太郎)
マーク・ロスコ──瞑想する絵画
会期:2009.2.21~2009.6.7
川村記念美術館[千葉県]
1958~59年、ニューヨークのシーグラムビル内のレストランを飾るために制作されたロスコの《シーグラム壁画》。結局レストランには飾られず、30点の連作はイギリス、アメリカ、そして日本に分散してしまう。今回はそのうちの半数を集めたもの。その15点が並ぶメイン会場に入ると、ちょっと感動的。薄暗いと感じるほど照明を落としたなか、広い展示室の4つの壁面のやや上方に、ワインレッドを主調とする絵画がわずか5センチ間隔で並んでいるのだ。ロスコはこの連作の展示に関して特別な指示は出してなかったらしいが、もともとレストランの壁を飾るためにつくられたことなども考えて、このような展示になったという。長時間「ロスコ浴」を楽しむには最適の展示かもしれない。
2009/02/20(金)(村田真)
ざ・てわざ
会期:2009.2.17~2009.2.23
日本橋三越本館6階美術特選画廊[東京都]
「ざ・てわざ」。逆から読むと「ざわて・ざ」。意味がない。ここでいう「てわざ」とはひたすら精緻なリアリズム表現のこと。でもリアリズムを通り越してリアル感が希薄だ。しかもそれが乾いていればいいのだけど、なぜかじっとり湿っている。それは招待作家として展示された中国の冷軍のウルトラスーパーリアリズム絵画と見比べてみればよくわかる。つまり冷軍のは「現代美術」で、日本人のは「洋画」なんですね。
2009/02/20(金)(村田真)
Tsunagaru
会期:2009/02/21~2009/03/21
静岡市クリエーター支援センター[静岡県]
小学校をリノベーションした静岡のCCCにて、公募の審査を担当したアート展を見る。瀧澤潔の「Tsunagaru」は、ほぐすと全長百km以上(?)になるというテグスを、空間の壁や天井におおうインスタレーションにより、かつて教室だった空間を変容させる。モノの境界がゆらぎ、自然光がさまざまな表情を見せながら、室内に侵入していく。アーティスト・トークも行なわれ、過去の作品との関係もよくわかった。削ったり、はったり、蝋や赤チンなどを使い、面の表層を操作し、そこでしか体験できない現象を発生させる手法が一貫している。代官山アドレスにて見学した大量のハンガーを使う瀧澤のインスタレーションもそうだったが、建築とのコラボレーションもおおいに可能な作風だ。やはり審査を担当したひとつ前の展示、甲元賢治の教室の時計のメディアアート的なインスタレーションがまだ撤去前だったおかげで、これも見ることができた。期待していた、ある種の空間の不気味さがちゃんと出ている。
関連URL=http://www.c-c-c.or.jp/schedule/program/2009/ncc_part2.html
写真上──瀧澤潔「Tsunagaru」
写真下──甲元賢治「Did You Remember What You Are Going to Do Tomorrow?」
2009/02/21(土)(五十嵐太郎)
大阪成蹊大学芸術学部卒業制作展
会期:2009.2.18~2009.2.22
京都市美術館[京都府]
韓国の留学生、林栽慶(Jae-Kyoung Lim)の作品《霜月の花~蝶の舞》は、以前、大学内のギャラリースペースで二人展を開催していたときと同じシリーズだった。桜の花びらが舞うなかで韓国伝統衣装を身にまとった少女ふたりが、蝶と花のあいだで遊ぶ11枚の大きなCGプリント(?)が展示され、、展示壁そばの床には桜の花びらをイメージした薄いピンクの紙が散らされていた。ふたりの少女は林の分身なのだと解説にある。暖かい春ではなく、キンと冷えた空気が伝わるような透明感を放ち、儚い情趣に溢れていたが、今の心境をめいっぱいに広げて見せるような展示に見入ってしまった。以前の発表の際に見た作品よりもうんと気持ちが掴まれる。卒業制作展だし、当前と言えばそうなのかもしれないが、祖国を離れて暮らした時の経過を丁寧に見つめる林の態度がうかがえて打たれるものがあった。
2009/02/21(土)(酒井千穂)