artscapeレビュー

2009年03月15日号のレビュー/プレビュー

東京ディズニーリゾート写真展

会期:2009.1.30~2009.2.25

フジフィルム・スクエア[東京都]

ディズニーランド自体が立体ヴァーチャルみたいな世界だから、それをデジカメで撮ったこれらの写真にはなんの違和感もない。個人的には「東京ディズニーリゾート油絵展」をやってみたい。ディズニーランドにイーゼル立てて城や山を描くの。これは違和感たっぷりだ。
東京ディズニーリゾート写真展:http://www.tokyodisneyresort.co.jp/tdr/japanese/photo/index.html

2009/02/21(土)(村田真)

東京五美術大学連合卒業・修了制作展

会期:2009.2.19~2009.3.1

国立新美術館[東京都]

見た順に記すと、まず造形大。ここの絵画専攻はいつもインスタレーションや映像が混じってごちゃごちゃとにぎやかだ。絵具を塗り重ねて引っかき、ダブルイメージを生み出した平下英理のペインティングがすばらしい。隣の多摩美は全体にレベルが高い印象だが、数が多いだけに愚作も目につく。ここでも絵具を重ねて微妙な味わいを出す大橋笑子の作品が目を惹いた。日芸はいまだ20世紀、それも50~60年代で停滞している感じ。道は遠い。2階はまず女子美。牛の出産シーンを描いた絵を見て、たしか2年ほど前にも同じような絵を出してた学生がいたなあと思ったら、同じ井澤泉だった。大学院に進んでいたのね。あとはBankARTでも見覚えのある作品が多い。最後、武蔵美は質も量も多摩美とタメ張ってる。古そうな掛け軸3点の上に都市風景を描いた高橋哲也の作品にはちょっと驚いた。金持ちなのか? 田畑に落下中の10人くらいの裸婦を真上からペインタリーなタッチでとらえた川崎浩由にも驚いた。こうして見ると、どんな作品に反応するかで逆にいまの自分の好みがわかるなあ。

2009/02/21(土)(村田真)

全光榮 展

会期:2009.2.14~2009.3.15

森アーツセンターギャラリー[東京都]

磯の岩肌みたいにゴツゴツとして、ところどころ穴のあいた作品──最近、海外のアート雑誌の広告でも見かける全光榮(チョン・クァンヨン)の作品だ。図版で見る限り「ウソっぽいなあ」と感じていたが、森美術館の下のギャラリーでやってたので実際にどんなものか見に行った。ゴツゴツした感触は、大きさの異なる三角形のポリスチレンフォームを韓紙で包み、木枠にはめ込んでレリーフ状にしているから。穴があいてるように見えるのは、その部分だけ染料で染めて陰影をつけているから。テマヒマはかかっているけど、早い話、伝統的な素材を売りものにした「だまし絵」にすぎない。立体もあって、パッと見、戸谷成雄の彫刻を思わせるものの、よく見るとハリボテ感がありあり……。なぜこんな作品が階数もショバ代も超高いギャラリーで展示され、おまけに南條史生森美術館館長の序文入りの売れそうもない豪華なカタログまでつくられるのか、事情に疎いぼくには理解できないのであった。

2009/02/21(土)(村田真)

アーツチャレンジ2009

会期:2009/02/17~2009/03/01

愛知芸術文化センター[愛知県]

愛知芸術文化センターにて、公募の審査員をつとめたアーツチャレンジ2009の展覧会を見学し、力作揃いであることを実感した。唯一、正統的な美術教育を受けていない神のぞみは、目玉が無数に反復する、独自の神話的な世界を構築した。当初の予定から場所を変えたことで、さらに高密度な作品となり、不気味さを増している。smilo-fatの《WONDER BOOK》は、多くの協力と協賛を得て、ポップアップ絵本のなかに入ることができる夢のような作品を完成させた。ただのインスタレーションではなく、構造設計の助言も必要とした点において、これは「建築」と言えるだろう。実現へのプロセスと努力を評価したい。ほかのアートとは違い、実際に作品に触って、空間の体験を楽しめることから、子どもたちにも大人気の作品だった。伊藤孝紀研究室は、ビニール傘×電話ボックスのリサイクル・システムを提案し、会場の外の都市空間を巻き込んだことによって、社会的な関心を呼ぶプロジェクトになっている。柴田英里による円環状に並ぶ世界史の悪女たちの作品は、当初のファイルで示された以上に迫力のある空間を出現させることに成功した。
宮永春香や植松琢磨の完成度はやはり高い。美大や芸大を卒業し、本格的に羽ばたこうとしている実力派のアーティストが、平均的な出展者となっている。前回に入選した作家がイベントに訪れたり、その友人の和田典子が今回は入っている、あるいは一回目の飯田陽子に教えられて、田中香菜が応募していたことなど、アーツチャレンジそのものがつむぎだす、文脈も生まれる。前年はぎりぎりで落ちたが、荒木由香里は、バージョンアップした作品によって、彼女の世界を実現した。今後、アーツチャレンジを継続していけば、企業による現代美術のサポートが減っていくなかで、若手作家の登竜門としての認知度と存在感をより高め、さらにプロ志向の応募者が増えていくだろう。

写真上──神のぞみ《Sea Garden Passion Flowers》
写真下──smilo-fat《WONDER BOOK》

2009/02/22(日)(五十嵐太郎)

『シビックプライド』

発行所:株式会社宣伝会議

発行日:2008年11月28日

副題は「都市のコミュニケーションをデザインする」。シビックプライドは、イギリス発の概念で、都市への誇りと愛着をもつこと、そして自分が都市の一部であるという自覚を持つことを指している。都市へのアプローチは、ここ最近かなり多様になってきたといえる。コンパクト・シティ、創造都市、景観、都市美、まちづくり、中心市街地活性化など、さまざまなキーワードが挙げられるだろう。しかし、シビックプライドという概念がやや異なるのは、物理的な何かを操作するというより、都市の一員としての市民についての概念であり、操作対象は例えばロゴであったり、食べ物であったり、イベントであったりと、これまでの都市論が扱う領域とはかなり異なる。副題が示しているように、そこでデザインされる要素は「コミュニケーション」そのものであり、それも端的に言えば、「都市」と「人」とのコミュニケーションであるといえる。本書では、イギリスを中心としたいくつかの都市などにおけるコミュニケーション・ポイントについて、タイプ分けされながら、シビックプライドの醸成するコミュニケーション戦略が分析、紹介、提案されている。例えば、バルセロナ市は、「あなた(=市民)がドキドキすると、私(=バルセロナ)もドキドキする」というメッセージをポスターなどで発信し続けた。単純な考えのようであるが、市民の意識こそが都市にとって大事なのだというメッセージは、これまでの都市計画とはまったく別次元から都市を変える力を持つ。本書を監修した伊藤香織によれば、地方分権化とグローバリゼーションが世界的に都市間競争を加速させた。そしてそれによってシビックプライドの重要性が再認識されている。またしてもイギリス発の概念かという気はするのだが、これ自体イギリスのプロモーション戦略の一つであるという入れ子状の関係があるかもしれない。

2009/02/22(日)(松田達)

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