artscapeレビュー

2009年03月15日号のレビュー/プレビュー

高橋匡太展Roomers 特別イベント

会期:2009/02/01~2009/02/21

MATSUO MEGUMI+VOICE GALLERY pfs/w[京都府]

南区へ移転したVOICE GALLERYへ。展覧会第一弾は高橋匡太展で、その特別パフォーマンス・イベントの日に出かけた。入口のドアを開けるとpfs、その奥にwという二つの空間がある。pfsでは、6名の若手作家による「冬景'09」という展覧会が開催中。展示を見た後に奥へ進んで、高橋匡太の映像インスタレーションのスペースへ。空間の中心あたりに吊られたスクリーン、床、壁面などに、男性と女性が動くシルエットの映像が浮かんでは消える。その中で、山中透によるサウンドと前田英一によるパフォーマンスのライブが行なわれた。最後に、観客一人ひとりにワインが注がれたところでパフォーマンスは終了したのだが、映像にもテーブルの上にワイングラスがあった。なにかストーリーがありそうな雰囲気の男女の映像自体に目がキョロキョロと動き、あれこれとドラマを連想してしまうのだが、6箇所に投影されるそれらの映像の交錯にくわえ、パフォーマンスと映像が交錯し、不思議な空間と時間が出現していた。

2009/02/11(祝・水)(酒井千穂)

「UMUTオープンラボ──建築模型の博物都市」展

会期:2008/07/26~2009/02/13

東京大学総合研究博物館[東京都]

数々の建築模型を集合的に展示。制作は主に東京大学、慶應義塾大学、桑沢デザイン研究所の学生。時代を問わず、さまざまな建築が模型化されていた。1/300のCCTVの巨大模型など、かなりの迫力だった。実行委員長は松本文夫。通常の建築展では、模型そのものが展示の対象物というより、原寸大の建築を展示することが出来ないので、図面や模型、プレゼンボードを通して展示がなされているだろう。しかしこの展覧会では模型そのものに焦点が当てられていた。会場にはラボデスクと呼ばれるテーブルが置かれ、複数の学生がそこで会期中も新しく模型をつくり続ける。プロの模型制作者の公開制作を行ない、ワークショップでは子どもがつくりかたを習いながら模型をつくり、スライドセミナーやレクチャーとも連動する。学生の作品も並びはじめる。つまり、これまで設計事務所のなかで閉じられていた模型制作そのものが、開かれた行為として展示されていたといえよう。一方、模型制作には時間がかかる。にもかかわらず大学や設計事務所では、場所が足りないなどの問題で、数多くの模型が大胆に捨てられる。この展覧会は、各大学が合同で制作をすることで、建築模型のアーカイブという可能性を示していたように思う。欧米には建築博物館があり、建築の社会的認知度も高いが、日本にはまだ存在していない。過去数十年、何度か議論されたにもかかわらず、まだ実現していない。しかしこのような試みが連鎖していくことによって、建築のアーカイブが積み重なっていくことは間違いないだろう。その意味で、重要な展覧会だったのではないだろうか。制作された模型群は、別の場所に保管されるという。

2009/02/12(木)(松田達)

佐々木加奈子 展「Okinawa Ark」/佐々木加奈子「Drifted」

佐々木加奈子 展「Okinawa Ark」
資生堂ギャラリー[東京都](2009/02/06~2009/03/01)
佐々木加奈子「Drifted」
MA2 Gallery[東京都](2009/02/13~2009/03/14)

2004年に「写真ひとつぼ展」の審査で初めて佐々木加奈子の作品を見た時、少女趣味のセルフポートレートという印象で、それほど面白いとは思わなかった。ところがそれから数年で、彼女は芋虫が蝶に変身するようにアーティストとして大きく成長し、凄みのある作品を次々に発表するようになった。器の大きさを見抜けないと、こういうことになる。言い訳するわけではないが、2006年に文化庁の芸術家海外研修でアメリカからロンドンに移り、ヨーロッパの伝統と革新性とが同居する環境に身を置いたことが、彼女に大きな飛躍をもたらしたのだろう。
今回の資生堂ギャラリー、MA2 Galleryの両方の個展とも、現在の彼女の関心の幅の広さと表現力とが充分に発揮されていた。「Okinawa Ark」は南米・ボリビアの「オキナワ村」を取材した映像・写真・インスタレーション作品。第二次世界大戦後、沖縄からボリビアに移住した人たちの子弟が通う小学校の普段着の佇まいを撮影した三面マルチスクリーン映像を中心に、佐々木自身が「少女」を演じる映像作品、一世から三世までの三世代にわたる家族のポートレート、さらに実物の木造の小舟のインスタレーションなどが、効果的に組み合わされていた。テーマになっているのは、戦争の傷跡を背負った移民という重いテーマだが、波間を漂う船のように揺れる映像など、彼女自身の身体性や生理感覚を通して表現されていることに説得力がある。
MA2 Galleryの「Drifted」では、より個人的な体験から導きだされたという印象が強まる。1Fに展示されているのは、アーティスト・イン・レジデンスで滞在したアイスランドで撮影された風景写真と、現地の新聞を折りたたんで作った紙の舟のインスタレーション。2Fには、暗闇の中を懐中電灯の光で照らして見る仕掛けの部屋が作られており、アイスランドやテキサスの荒涼とした大地を月世界に見立てた中に、Google Earthの広島市上空からの空撮写真なども含まれていた。両方の個展に「舟」が登場してくるが、そこにはあてどなく漂流しながら、過去と現在、自然と人間の世界、ある場所と別な場所を結びつけ、繋いでいこうとする彼女自身の姿が象徴的に投影されているように感じる。
そういえば、津田直も『漕』(2007)で「舟」のイメージを召喚していた。同世代(1976年生まれ)である佐々木加奈子もまた、神話的なシャーマニズムへの志向を作品に取り込もうとしているのが興味深い。

2009/02/13(金)(飯沢耕太郎)

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堀越裕美「世界のはて LITTORAL DU BOUT DU MONDE」

会期:2009/02/04~2009/02/17

銀座ニコンサロン[東京都]

堀越裕美も、文化庁の芸術家海外留学制度で2005年から2年間フランスに滞在したことが飛躍のきっかけになった。とかくいろいろ問題点が指摘されることの多い制度だが、作家本人の成長の曲線とうまくフィットすると、実り多い刺激になることも多いということだろう。
堀越は1968年生まれ。92年に東京綜合写真専門学校を卒業し、96年に個展「海のはじまり」(フォト・ギャラリー・インターナショナル)でデビューした。99年に同じギャラリーで開催した「海のはじまり2」も含めて、しっかりとした画面構成力とプリントの能力は卓越したものがあったが、とりたてて印象に残る仕事ではなかった。ところが今回の展示では、表現に柔らかみが出てくるとともに、彼女の作品世界が確立しつつあるように感じる。
タイトルの「LITTORAL DU BOUT DU MONDE」というのは、フランス・ブルターニュ地方の最西端に実際にある地名である。ヨーロッパの中心部から見れば、そこはまさに文明の果つるところだったのだろう。だが堀越は、波と砂と光と霧の、何とも茫漠とした風景を細やかに描写するだけではなく、そこに人間たちの姿を点在させている。彼らは風景に溶け込みながら、何かしら微かな身振りで自分たちの存在を主張しているように見える。つまり「世界の終わり」はそこで「世界のはじまり」の場所に転化しようとしているようにも思えるのだ。
そこから見えてくるのは、単純なペシミズムでもロマンティシズムでもない、自然と人間の新たな関係を構築するという意志なのではないだろうか。この大きなテーマが、今後堀越の中でどんなふうに動いていくかが楽しみだ。

2009/02/13(金)(飯沢耕太郎)

京都市立芸術大学作品展

会期:2009.2.11~2009.2.15

京都市立芸術大学、京都市美術館[京都府]

会場が随分離れているし、全学年が出品する大規模な展覧会なので学内と京都市美術館両方の展示を一日で見ようと思うと結構急がねばならない。けれど、やっぱり今年も最後は慌てるはめになってしまった。学内展の油画と日本画の展示棟は特に、全体的に見応えがありとても良かった。特に繊細さと物語を感じさせる世界をドローイングとペインティングで展開していた油画の松嶋由香利、その隣のスペースで発表していた山下春菜が印象に残る。また、版画科の修士2回生の森末由美子の展示も気になった。“アジシオ”や“食卓塩”の小瓶が並んでいて、よく見ると中には外側のラベル部分の文字と位置がぴったり重なるように、青で着色した部分がある。もともとの中身を一度全部瓶から出し、改めて詰め直しているようだった。関西弁で「これアホや~!」(良い意味で)と思わず笑ってしまう労作。ほかにも、天の部分をグラインダーで削って山並みのように並べた百科事典、ファー生地を裏表交互に引き出し、ボーダー状にしたベスト(?)などが展示されていたが、どれも作品に知性とユーモアを感じられてワクワクした。学内展はひとりの学生がひとつの教室を使っている場合が多いのでたくさんの個展を見ているような気分。それだけに、展示面での課題もあり、会場としては美術館よりもハードルが高いとも言えるけれど今年も充実した内容。見逃さなくてよかった。

2009/02/13(金)(酒井千穂)

2009年03月15日号の
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