artscapeレビュー
2009年12月01日号のレビュー/プレビュー
中島俊市郎 展
会期:2009/10/31~2009/11/21
studio J[大阪府]
蛍光色のプラスチック素材で作られたひも状のオブジェ(カラフル!)が、大量に天井から垂れ下がっている。まるでパーティの飾りつけみたい。軽やかで、華やかで、見ているだけで楽しくなる。日頃から工芸家であることに自覚的な中島だが、今回の作品は少し雰囲気が違うなと思っていたところ、本人の説明を聞いて納得した。オブジェの両端にはフックが付いており、リングにすればネックレスへと変身するのだ。いや、ネックレスが本来の姿で、むしろ今回の展示がバリエーションということか。「自分はあくまで工芸家ですから」。そんな作家の自負が聞こえてくるようなプレゼンだった。
2009/10/31(小吹隆文)
『停電EXPO』(ヨコハマ国際映像祭2009 オープニングイベント)
会期:2009/10/31~2009/11/01
新港ピア[神奈川県]
梅田哲也、神村恵、contact Gonzo、捩子ぴじん、堀尾寛太らが参加したこれは、いわば2009年の『無題イベント』だった。『無題イベント』とは、1952年に音楽家ジョン・ケージがブラック・マウンテン・カレッジに集まった美術作家、ダンサーらと行なった中心なき同時多発的な上演のこと。会場に入ると、観客は黙々と準備に勤しんでいる演者たちを横目に自分の座る場所を探す。座席はない。座れるスペースが各自の座席。高い天井には梅田のオブジェがいくつも吊ってある。目をつむったダンサー(?)たちがゾンビのように徘徊を始める。床に散らばった目的のわからない資材を手探りで掴むと、目をつむったままどこかへ運んでゆく。観客が集まっていたスペースの裏で突如大きな音が発せられる。そちらへ引きずられるように移動する観客。空間全体が渦のように波のように、あるところで高まり、次第に沈んでゆくと、また別のところでなにかがはじまる。観客はその渦中に巻き込まれる。なによりも面白かったのは、見所が拡散してパフォーマーと観客の区別が希薄になってゆくと、観客である自分もまたパフォーマーであるかのような錯覚が生まれるところ。この混沌は、ぼくが見逃した1日目のほうが魅力的だったのだという。仕方ない。そうした、結果の違いが生まれてしまうのも『無題イベント』的なアプローチならではなのだ。
2009/11/01(日)(木村覚)
ダンス企画おやつテーブルvol.5『板間の間』
会期:2009/11/06~2009/11/08
ルーサイト・ギャラリー[東京都]
おやつテーブルは、ダンス・演劇ライターでもあるまえだまなみを主宰に、岡田智代、おださちこ、木村美那子が行なってきた、サイトスペシフィックな、つまり踊る場所を丁寧に設定することで、そこからでしか生まれないダンスを作品に仕立てようとする企画。世代の異なる女たちが集まれば、滲み出てくるのは女の日常、そこで普段感じている思い、そこで自然に差し出している振る舞い。今回は若い赤木はるかが参加して、一層、世代のバラエティが豊かになった。会場は、昭和を代表する芸者歌手が暮らした板間。戸を開け放つと、隅田川を挟んだ都会の見事な景色。二つのギャップを行き来する、懐かしくちょっと間の抜けた丈のスカートとベスト姿の女たち。言葉にしにくいちょっとした瞬間が魅力的。なかでも、おだが小さな箱から何十個ものリボンを一つひとつ取り出しては床に広げてゆく、その手や指の振る舞いや、転がるリボンテープが、なんとも美しかった。なにを美しいと感じ、なにになりたいと思い、なんだと思われて生きてきたか、そうしたこれまでの生の来歴がおだの佇まいから読みとれ、それがダンスになっている。さりげないけれどもありふれたものではない。おだのパフォーマンスを見る度にぼくは強い感動を覚えてしまう。また、前回公演では妊婦姿で踊った木村が今回は赤ちゃんと踊った。信頼して母を見つめる赤ちゃんのやわらかな眼差しが印象に残った。
2009/11/06(金)(木村覚)
Exhibition as media 2009『drowning room』
会期:2009/10/31~2009/11/23
神戸アートビレッジセンター[兵庫県]
大﨑のぶゆき、田中朝子、冨倉崇嗣、中川トラヲ、森本絵利によるグループ展。ギャラリーの他、シアター、スタジオ、パブリックスペース、階段、トイレなど、建物を縦横に駆使することで、各作家のパフォーマンスが十二分に発揮された。ギャラリーを応接間に見立てた演出や、展覧会に至るプロセスをドキュメント仕立てで公開したコーナーも斬新だった。アーティスト・イニシアティブの良い面が発揮された訳だが、彼らを支えたキュレーターにも拍手を送りたい。ちなみにタイトルの『drowning room』とは、今回のアーティストに共通する傾向「drown(溺れる、夢中にさせる)」と、「draw(描く)」、そして「drawing room(応接間)」をかけて作られた造語である。
2009/11/1(小吹隆文)
群馬の美術 1941-2009
会期:2009/09/19~2009/11/15
群馬県立近代美術館[群馬県]
戦後の群馬の美術の歩みを振り返る展覧会。戦前の1941年に結成された群馬美術協会にはじまり、県美術展の制度化、60年代半ばに「群馬アンデパンダン展」を開催していたNOMOグループ、74年に開館した群馬県立近代美術館など歴史的な時間軸を中心にしながら、日本画・洋画・立体・工芸・インスタレーションなど、さまざまな表現形式による作品160点あまりが展示されている。いわゆる団体展系の作品が多いことはたしかだが、それにしても福沢一郎や山口薫、鶴岡政男など、群馬に縁のある絵描きが多いことに驚かされる。なかでもひときわ際立っていたのが、おそらく出品作家のなかでもっとも若い、八木隆行の《B2プロジェクト 足尾》。小さな湯船を背負って山奥まで歩いていき、そこでお湯を沸かしてビールを呑みながら屋外での即席入浴を楽しむというプロジェクトだ。地形図に記された八木の足跡はストイックな求道者を連想させるが、じっさいの光景を写した写真を見ると、じつにのどかで楽しそうである。地方における美術の制作活動がますます困難を向かえている昨今、八木のプロジェクトは「地方でもひとりでも十分にやっていける」というたくましさを高らかにアピールしていたように見えた。
2009/11/10(福住廉)