artscapeレビュー
2009年12月01日号のレビュー/プレビュー
田中和人 展 青い絵を見る黄金の僕
会期:2009/11/16~2009/11/28
Port Gallery T[大阪府]
森の情景を撮った写真作品なのだが、青っぽかったり黄味がかっていたりと不思議な色合い。ダム湖に沈んだ森を撮ったような、とろりとしたゼリー状の空気感も謎めいている。田中は絵画と写真の関係性を考えるうち、金屏風の平面的な空間処理を写真でやってみようと考え、金箔をフィルターとして使用したらこのような作品ができたのだという。青系のトーンは金箔が青の光線しか通さないためで、黄色の部分は何らかの影響で金箔の色が写り込んでいるらしい。怪我の功名なのかどうかは知らないが、きわめて幻想的な作品が生まれたのは確かだ。空間を意識したインスタレーション的な展示構成も巧みだった。
2009/11/16(小吹隆文)
清方/kiyokata ノスタルジア
会期:2009/11/18~2010/01/11
サントリー美術館[東京都]
「最後の絵師」といわれることが多い鏑木清方の展覧会。代名詞ともいえる美人画のほか、スケッチや絵筆、イーゼル、そして清方が親しんでいたという風俗画などが展示された。清方といえば透き通るような白い肌と着物の絵柄を克明に描き出す高度な描写力だが、今回改めて思い知ったのは背景の処理のうまさ。色の濃淡を巧みに使い分けることで人物の輪郭や身体の所作を浮かび上がらせ、結果として人物像をよりいっそう効果的に引き立てることになっている。図録の装丁もじつに美しい仕上がり。
2009/11/17(福住廉)
ラグジュアリー:ファッションの欲望
会期:2009/10/31~2010/01/17
東京都現代美術館[東京都]
ファッションの展覧会。京都服飾文化財団のコレクションから選ばれた17世紀から現代までの作品およそ100点が展示された。「ラグジュアリー」とは「余剰から生み出された豊かさ」を意味しているらしいが、じっさいの展示はその言葉を見事に裏切り、到底ファッションの欲望を体現したものとは考えられない代物。マネキンに着せられた服飾の数々は、まるで博物館の倉庫からそのまま取り出してきたかのように、じつに貧相極まりなく、それらの服飾を身につけたいという欲望を喚起することもなければ、オブジェとして楽しめるものですらない。建築家の妹島和世がコム・デ・ギャルソンの服を見せるためにデザインしたという空間も、透明なアクリルを湾曲させながら衣服を囲むことによって、手に届きそうで届かない神聖性を引き出そうとしたのだろうが、完全なホワイトキューブならまだしも、冷たい石を連想させる巨大な空間では、その寒々しい灰色がアクリルに映りこむため、透明美が半減するばかりか、肝心の衣服がまったく美しく見えなかった。1999年に同館で催された「身体の夢:ファッションor見えないコルセット」展は、たとえばマルジェラの黴を生やしたジャケットを屋外に展示するなど、かなり挑戦的で厚みのある展示構成だったが、今回の展覧会は作品の量的にも質的にも、そして見せ方という点でも、10年前より明らかに退行しているといわざるを得ない。これが、ファッションと美術館をめぐる経済的状況のちがいに由来しているのか、あるいは基礎研究の衰退を意味しているのかは定かではないが、いずれにせよ人間の欲望を何かしらのかたちで刺激しないかぎり、アートだろうとファッションだろうと、人びとをひきつけることは到底かなわない。
2009/11/18(福住廉)
休符だらけの音楽装置
会期:2009/10/10~2009/11/03
旧千代田区立練成中学校[東京都]
旧中学校の屋上運動場で催された展覧会。大友良英をはじめ、伊東篤宏、梅田哲也、Sachiko M、堀尾寛太、毛利悠子、山川冬樹が広い会場に作品を点在させた。キャプションもハンドアウトもなかったので、どれが誰の作品かは判別しなかったけれど、全体的に共通していたのは、ひそやかな佇まい。オブジェをわずかに運動させたり、光を時折明滅させたり、小さな音を発したり、巨大な装置を派手に動かすスペクタクルなアートとは対照的に、大切な宝物を手のひらでそっと包み込むような、ナイーヴな感性が通底していたようだ。美術にかぎらず、音楽や映像など文化全般に及ぶ、ゼロ年代の大きな潮流のひとつである「ひそやか系」が一堂に会した展覧会だった。
2009/11/2(福住廉)
大西伸明 展 Chain
会期:2009/12/19~2010/01/23
ギャラリーノマル[大阪府]
日用品や木の枝、さらにはテトラポッド、自動車など、さまざまな立体物を型どり、その表層をトレースした作品を制作するアーティスト、大西伸明。近年は美術館での発表も増え、ますます注目度がアップしている彼が新作展を開催する。これまでもテーマにしていた「イメージの反復」や「連続する事象」に焦点を合わせたものだが、版画、ドローイング、映像と音楽等、使用メディアが多岐にわたるのが興味深い。大西の新たな面が垣間見える機会になりそうだ。
2009/11/20(小吹隆文)