artscapeレビュー

2009年12月01日号のレビュー/プレビュー

ニュータウンピクニック──遺跡をめぐるアート

会期:2009/10/20~2009/11/07

都筑民家園ほか[神奈川県]

横浜市都筑区の港北ニュータウンにある「大塚・歳勝土遺跡」を中心に催された展覧会。江戸時代の古民家や弥生遺跡などの中にアート作品が展示された。参加したのは、今井紀彰や開発好明、フランシス真悟、上野雄次、文殊の知恵熱など、総勢25組。秀逸だったのは、復元された竪穴式住居の内部に植物のようなオブジェを敷き詰め、来場者をブランコに乗せてその光景を見させた、三宅光春のインスタレーション。暗い空間でブランコに揺られていると、まるで夢のなかを漂うかのような錯覚を起こす。ただ、正面にはその来場者の姿をとらえた映像がリアルタイムで映し出されていたが、これはその夢のような経験から覚醒させることはあっても、それを深化させることはなかったように思う。

2009/11/5(福住廉)

田口行弘 個展「Über~performative sketch」

会期:2009/10/06~2009/11/07

無人島プロダクション[東京都]

ベルリンを拠点に活動している田口行弘の個展。日々描き続けているドローイングの紙で壁を埋め尽くし、近年になって取り組み始めた映像作品を発表した。とりわけコマ撮りした写真を連続させて映像化したストップモーション・アニメーションが鮮烈な印象を残した。それらのドローイングが別の画廊の内部で変幻自在にかたちを変化させながら縦横無尽に動き回る様子は、じつに楽しい。また、これまた別の画廊の床板を剥ぎ取り、その長い板が群れを成して画廊内を練り歩き、ついには街へと飛び出して徘徊する映像を見ていると、モノとしての板がまさしく生物のように思えてくる。長い板といえば、斎藤義重から菅木志雄、そして川俣正にいたるまで、現代美術にとっては定番の素材だが、田口はそれらを組み合わせて空間を構築する段階から有機的に動かす段階に推し進めたといえるだろう。ただし、川俣が十八番とするような板を集結することによってその場の空間との生きた関係性を結ぶという側面は、残念ながら十分に成熟しているとは言いがたい。この点をクリアしたとき、田口の作品は大きな達成を果たすにちがいない。

2009/11/5(福住廉)

‘文化’資源としての〈炭鉱〉展

会期:2009/11/04~2009/12/27

目黒区美術館[東京都]

文字どおり「文化資源」としての炭鉱に焦点を当てた展覧会。同館を会場とした「<ヤマ>の美術・写真・グラフィック」と「川俣正コールマインプロジェクト~筑豊、空知、ルールでの展開」、そしてポレポレ東中野との共同企画として催される映像プログラム「映像の中の炭鉱」の3つのパートで構成されている。「<ヤマ>の美術・写真・グラフィック」では山本作兵衛の《筑豊炭鉱絵巻》をはじめ、土門拳の《筑豊の子どもたち》、岡部昌生の《ユウバリマトリックス》、上野英信らによる《写真万葉録・筑豊》など、炭鉱にまつわる絵画・写真・版画・彫刻・ポスターなどあわせて400点あまりの作品や資料が一堂に会しており、その物量に圧倒される。炭鉱に何の記憶を持たない者でも、たとえば田嶋雅巳の写真シリーズ《炭鉱美人》を見れば、かつて炭鉱で働いていた女たちの証言をとおして当時の暮らしや労働をうかがい知ることができるだろうし、山本作兵衛がみずから歌った炭鉱歌を耳にしながら炭鉱絵巻を見れば、ただ単に絵を読むよりいっそう<ヤマ>の雰囲気を感じ取ることができるだろう。ただ「川俣正コールマインプロジェクト」の会場は、ダンボールを一面に敷き詰めて田川の街並みを再現したインスタレーションだったが、単なる資料展というかたちを回避する意欲は伝わってきたものの、運動としてのプロジェクトのおもしろさをモノとしての展示に落とし込むことの難しさが十分にクリアできているとは到底いえない、何とも侘しい展観だった。しかし、このことを差し引いたとしても、本展は近年まれに見る好企画、決して見逃してはならない展覧会であることはまちがいない。学芸員・正木基による関係者へのインタビューや研究者による論考が収められた図録も充実の出来映え。久々に「読める図録」でうれしい。

2009/11/8(福住廉)

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