artscapeレビュー

夏池風冴「個別のまぼろし」

2014年05月15日号

会期:2014/04/22~2014/04/27

KUNST ARZT[京都府]

切り取ったモノクロ写真の断片を張り合わせ、ひとつの風景として再構成した作品は、実作家自身の実際の記憶を元に再現されたイメージ。あのとき、ここにはあの建物があったはずなのに、ここからはあの看板が見えた気がしたのだけれど。誰にでもあるそのような場所に関する記憶違いや記憶の混同、その無意識からつくり上げられるイメージ。記憶していることと実際に目にしたもの、そのギャップにアプローチする夏池の表現は、一見全体の風景も自然に感じられる。しかし写真の断片(=記憶の断片)の重なり具合、微妙なズレ、色味の違いなど、それぞれの「つなぎ目」に注目してみると、異なる時間や場所にも次々と思いが巡る情感を孕んでいるから惹きつけられる。実在する場所の記録から新たなイメージを生み出す際の、発想の振幅が興味深く印象に残る個展だった。

2014/04/26(土)(酒井千穂)

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