2018年10月15日号
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artscapeレビュー

菱田雄介『2011』

2014年05月15日号

発行所:VNC

発行日:2014/03/08

菱田雄介は2011年3月22日、東日本大震災発生から12日目に被災地に入った。気仙沼の中学校の10日遅れの卒業式や、被害が大きかった石巻門脇地区の状況などを撮影し、その10日後に手づくり写真集『hope / TOHOKU』を完成させる。たまたま渋谷の書店でそのうちの一冊を手にした筆者は、彼が「撮らなければならない」という衝動に突き動かされつつ、あくまで冷静に自問自答を重ねて、これほど早い時期にしっかりとした写真集をまとめ上げていることに衝撃を受けた。それらの写真群は、僕自身が書き綴っていた文章と併せて、のちに共著『アフターマス 震災後の写真』(NTT出版、2011)として刊行されることになる。
だが菱田はこの時期、震災の写真だけを撮影していたわけではない。すでに数年前から、テレビディレクターとしての忙しい仕事の合間を縫って海外取材を積み重ねていたのだが、その頻度と集中力がこの年には異様なほど高まってくるのだ。本書はその彼の『2011年』の行動の軌跡を、文章と写真とでもう一度振り返った600ページを超える大著である。1月のチェルノブイリ取材から始まって、北朝鮮と韓国で同じような状況の人物たちを対比して撮影する「border/korea」のシリーズのために何度か両国に入り、大洪水を撮影するためタイを、「アラブの春」の取材のためにチュニジアを訪れるなど、なんとも凄まじいスケジュールをこなしている。
そうやって見えてきたのは、2011年こそ「振り返ってみれば、あれが転換点だったと思える年」だったのではないかということだ。この認識が正しいのか間違っているのかは、もう少し時が経たないとわからないだろう。だが、菱田のまさに体を張った思考と実践の集積を目にすると、そのことが強い説得力を持って伝わってくる気がする。
歯切れのいい文章で一気に読ませるが、巻末に32ページにわたって掲載された写真に、菱田の写真家としての能力の高さがよく表われていると思う。決して押しつけることなく、だが何かを強く語りかけてくる写真群だ。

2014/04/11(金)(飯沢耕太郎)

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