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文藝絶佳──林忠彦、齋藤康一、林義勝、タカオカ邦彦 写真展

2014年05月15日号

会期:2014/04/19~2014/06/29

町田市民文学館ことばらんど[東京都]

林忠彦の『小説のふるさと』(中央公論社、1957)は、彼が1956年に『婦人公論』に連載したシリーズをまとめた写真集だ。12人の小説家の作品を選び、その舞台となった土地を撮影しながら、物語世界を再構築していく。林といえば、戦後すぐの「焼け跡・闇市」の時代を活写した「カストリ時代」の写真群や、太宰治、坂口安吾ら「無頼派」の文士たちのポートレートが有名だが、僕はこの『小説のふるさと』が、彼の写真家としての力量をもっともよく発揮した作品だと思う。
土門拳の「絶対非演出の絶対スナップ」の提唱を真摯に受けとめつつ、それに盲目的に追従することなく、持ち前の演出力と画面構成の能力を充分に発揮したこの作品の魅力を、今回の町田市民文学館ことばらんどの展示でも味わうことができた。残念ながら今回展示されたのは、川端康成「伊豆の踊り子」、三島由紀夫「潮騒」、椎名麟三「美しい女」、志賀直哉「暗夜行路」、石坂洋次郎「若い人」の5作品に取材した写真だけだったので、ぜひシリーズ全体を概観する展覧会を実現してほしいものだ。
なお、林忠彦のほかに、齋藤康一「THE MAN 時代の肖像」、林義勝「観世清河寿の能」、タカオカ邦彦「町田文学散景」の3作品も同時に展示されていた。3人とも林忠彦門下という共通性はあるが、それぞれアプローチは異なっている。齋藤の正統的な「作家のポートレート」、原テキストに遡って能の世界を探求する林義勝の試み、町田を舞台にした現代作家の作品のバックグラウンドを撮影したタカオカの撮りおろしと、見応えのある作品が並んだ。チラシに掲げられた「物語を紡ぐのは小説だけではない」という言葉は本当だと思う。

2014/04/26(土)(飯沢耕太郎)

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