2024年03月01日号
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artscapeレビュー

2012年12月15日号のレビュー/プレビュー

山口華楊 展

会期:2012/11/02~2012/12/16

京都国立近代美術館[京都府]

動物や鳥、樹木、花などを描き続けた画家、山口華楊(1899~1984)の生涯と画業を紹介する大規模な回顧展。新たに見つかった初期の本画を含む花鳥画、動物画の代表作に加え、下図、素描なども数多く展示された。京都に生まれ、京都を拠点に活躍した作家なので、以前からちょこちょこ作品を見る機会はあったのだが、これほど纏まった数を見るのは私は初めて。70年あまりの制作の軌跡をたどる本展では、華楊の生真面さと弛まない探究心、生命を慈しむ態度といった作家の人となりも同時に味わえたのが嬉しい。徹底した写生をもとに描かれた作品のなかでも、特に動物画の世界には惹きつけられた。ネコやリス、小鳥などのかわいらしい表情やポーズ、猿、鹿、馬、ライオン、トラなどの動作や顔つき、それらの瞳、尻尾や足先に至るまで、細心に描かれた動物は、正面を向いているものも多いせいか、大きな作品でもつい画面に近づきたくなってしまうような動的魅力がある。順路の最後には鳥や動物のスケッチを貼りまぜ屏風に仕立てられた《貼り交ぜ屏風》があったのだが、これがまた素晴らしい。寝そべっていたり、走っていたり、遠くを見つめていたりと、さまざまな角度からとらえられた動物たちの動作は、力強さと生命感にも溢れている。「見る」ことに座禅か修行のように取り組んだという作家の眼差しにも思いがめぐる展覧会だった。

2012/11/01(木)(酒井千穂)

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日本の映画ポスター芸術

会期:2012/10/31~2012/12/24

京都国立近代美術館[京都府]

京都国立近代美術館の4階、コレクションギャラリーでは1960年代を中心に1930年代から1980年代に日本で製作された約80点の映画ポスターが展示されている。まったく知らない古い映画から、粟津潔、横尾忠則、和田誠などが手がけた、私でも見覚えのあるポスターまでさまざまなものがあるが、それぞれの時代性をうかがわせるタイポグラフィやイラストを見比べるだけでも面白い。上村一夫の《シェルブールの雨傘》(1973)、野口久光の《大人は判ってくれない》(1960)などはインパクトも魅力も強烈で、古い映画だが何度見ても新鮮だ。人によっては映画そのものよりも、むしろこれらのポスターのイメージのほうが記憶に残っているという場合もあるだろうなと思いながら会場を見てまわった。映画ポスターとひと言でいっても、それらを手がけたデザイナーやアーティストの個性と才能が映画の枠を超えて浮かび上がるのが楽しい。山口華楊展は12月16日までだがこちらは12月24日まで開催されているので、チャンスがあれば足を運んでみてほしい。

2012/11/01(木)(酒井千穂)

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北斎──風景・美人・奇想

会期:2012/10/30~2012/12/09

大阪市立美術館[大阪府]

今日は阪神日帰りの旅。まずは天王寺の大阪市立美術館へ。なぜ大阪で「北斎展」なのかというと、200年前の文化9(1812)年に北斎が大坂を訪れたという説があるからだ。いわば来坂200周年記念(+主催の読売新聞大阪発刊60周年)。当時『北斎画式』という絵手本が大坂で出版されたり、北洲や北敬といった大坂の絵師たちが弟子入りしたらしい。今回は《富嶽三十六景》をはじめとする風景画、肉筆も含めた美人画、妖怪や漫画などの奇想画を3本柱に、大坂と北斎とのつながりを示すコーナーも設けられている。とはいえ浮世絵版画は見慣れたものばかりだし、サイズも思ったより小さく、また作品保護のため照明も落とされているので早足に通りすぎ、肉筆画のところで足を止める。なかでも同館所蔵の重要文化財《潮干狩図》は、江戸絵画には珍しい遠近感で細密に描かれ、斬新な技法表現も採り入れられていて、驚くほどモダン。思うに北斎という画人は、関西人には悪いが、応挙の写生力と若冲の奇想と蕭白の衒気性を足しても足りないくらい巨大な存在だ。いきなりこんなヘヴィーなもんを見せられると先が思いやられる。ちなみに出品点数243点、展示替えを含めた作品総数は378点にものぼる。1時間ほどで退散。

2012/11/02(金)(村田真)

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館勝生 展

会期:2012/10/12~2012/11/04

ヨシミアーツ[大阪府]

通天閣のふもとで昼飯食って、笹部画材で絵具を買ってヨシミアーツへ。3年前、44歳の若さで亡くなった画家の遺作展。館(たち)さんとは20年ほど前に東京や京都で何度かお会いしたが、当時は植物の芽か虫の羽根のような形態を、濃緑色を中心に炸裂するようなタッチで描いていた。その後もたびたび個展の案内状をいただき、気にはしていたものの見ることがかなわず、どのように作品が展開していったのか知らなかった。今回、亡くなる前年(すでに癌が進行していた)の作品を見て、描かれているものは大きく変わっていたけれど、まぎれもなく館さんの絵であることが了解できた。どれも画面の左上のほうに(右利きだったら描きにくいはず)、飛沫が飛び散るくらい鉛筆と絵具でグリグリ塗りたくった絵。これは絵を描くというより、なにか印さざるをえないような衝動に突き動かされて腕を振り回した痕跡というべきだ。これ以上どう展開できただろうか。もはや展開する余裕も余地もないことを知ってて描いたんだろうか。

2012/11/02(金)(村田真)

エル・グレコ展

会期:2012/10/16~2012/12/24

国立国際美術館[大阪府]

この展覧会は東京にも巡回するけど、ついでだから寄って見た。記者発表のときにも書いたが、エル・グレコに対する唯一の関心事は、なんでこんなに絵のヘタな画家が美術史に残ったのかということに尽きる。人体デッサンは狂ってるし、その上に着せた衣装はハリボテにしか見えない。色彩もやたら黒を用いるから肖像画の顔なんか灰色でまるで死人のようだ。ギリシャ人のくせにちゃんと石膏デッサンをやらなかったんだろうか。「だってマニエリスムだもん」ではすませられない逸脱ぶりだ。しかしそんな荒っぽさがモダンといえば、たしかにベラスケスなんかよりはるかにモダンといえるかもしれない。こんな絵ほかに描くやついないから、だれが見たってエル・グレコだってわかるし。でもだからといって美術史に残るか。

2012/11/02(金)(村田真)

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2012年12月15日号の
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