artscapeレビュー

谷敦志「ポップでフェティッシュな日常が今日もダラダラ続く!」

2011年10月15日号

会期:2011/08/27~2011/09/05

ポスターハリスギャラリー[東京都]

大阪出身の谷敦志は、今どきむしろ絶滅種に近いフェティッシュ=エロティシズム系の写真家。『BURST』『夜想』『トーキングヘッズ』などの雑誌を舞台に、耽美的で危ない写真作品を発表し続けてきた。近年は音楽や演劇関係のジャケットやポスターの仕事も精力的にこなしており、コアなファンも多い。
今回の展覧会のタイトルが、彼の現在の心境をよく示していると思う。「ポップでフェティッシュな日常が今日もダラダラ続く!」。自分でも「B’zの歌詞みたい」といっていたが、半ばやけくそでこのうっとうしい時代を突っ走っていきたいという気概と覚悟が感じられる。たしかに以前のエロスのダークサイドのうごめきを探り当てようとしていた作品と比較すると、今回のシリーズには「ポップでフェティッシュな」気分が強調されている。大阪人らしく、こてこての笑いを取ろうという意欲も感じられる。
とはいえ、ラテックス製のチューブを巻きつけた奇妙な衣裳に身を包み、どぎついメーキャップを施され、ぎくしゃくしたマネキン人形のようなポーズをとらされている人物たちから透けてくるのは、どす黒い血の匂いであり、時代の暗部をぎりぎりまで抉り続けようとする姿勢にはまったく揺らぎがない。この「Coolでおバカで大丈夫な写真たち」が、ふたたびまったりと弛緩しつつある震災後の日常に、非日常的な裂け目を入れ続けることを期待したい。さらに走り続けていくと、もっととんでもない写真の世界が見えてきそうな予感もする。

2011/09/01(木)(飯沢耕太郎)

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