artscapeレビュー

岸幸太「The books with smells」

2011年10月15日号

会期:2011/08/23~2011/09/30

KULA PHOTO GALLERY[東京都]

岸幸太はこれまでphotographers’ galleryやKULA PHOTO GALLERYで、「傷、見た目」(2006年~2009年)や「もの、しみる」(2011年)といった個展を開催してきた。東京の山谷、大阪の西成、横浜の寿町など、いわゆるドヤ街に集まる人々や、独特の存在感を発する建物やモノを撮影した写真群は、これまでオーソドックスなモノクロームプリントで発表されてきたのだが、今回の個展ではかなり思い切った転換を図っている。写真を新聞紙にプリンターで印刷し、それを「本」のような体裁にして積み上げたり、壁に貼り巡らしたりしているのだ。しかもその制作のプロセスそのものを、ギャラリーで公開するという試みである。訪ねることができたのが会期の終了間際だったので、小さな部屋の中には写真がプリントされた新聞紙の束があふれかえり、町工場のような雰囲気になっていた。
新聞紙に画像を印刷したりドローイングしたりする試みは、岸が最初ではないかもしれない。だが、こういう展示の仕方は「コロンブスの卵」のようなところがありそうだ。新聞紙の粗いざらざらとした質感と、出合い頭に路上の人々をスナップした写真の内容とが、あまりにもぴったりしていて、最初からこの展示をもくろんで撮影したように思えるほどだ。新聞紙は全国から集めたそうで、沖縄から北海道の新聞までそろっている。しかも大震災関係の記事がかなりのスペースを占めているので、強烈な視覚的インパクトがある。アイディアとそれを実現する手際のよさとが、これほど鮮やかに決まった展示も珍しいのではないだろうか。思いつきだが、同じコンセプトで海外の新聞、労働者の写真で展開してみてはどうだろうか。かなりの反響が期待できそうな気がする。

2011/09/27(火)(飯沢耕太郎)

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