artscapeレビュー
齋藤亮一「佳き日」
2011年10月15日号
会期:2011/08/27~2011/09/06
コニカミノルタプラザ ギャラリーC[東京都]
齋藤亮一はこれまでバルカン半島、中央アジア、キューバ、インドなど、世界中を旅して写真を撮り続けてきた。あまり目的のある旅ではなく、人々や風景との偶然の出会いを、精度の高いスナップショットの技術で写し止めていく。写真展の開催や写真集の刊行もコンスタントに積み上げており、優しく温かみのあるその作品世界は完成の域に達している。だが逆にここ数年、どこか吹っ切れない思いが強まっていたのではないかと想像できる。真面目な作家だけに、これから先どのように写真を撮り続けていくのかという悩みもあったのではないだろうか。その答えが、今回の展示で完全に出たとは言い切れない。だが、壁にカラーピンで無造作に留められた写真を眺めているうちに、齋藤が何かを みかけているように思えてきた。
今回のシリーズ「佳き日」のテーマになっているのは、「日本の各地に脈々と受け継がれてきた『はれ』の日」の情景である。青森県の八戸えんぶりから香川県の中山農村歌舞伎まで、全国の祭りや民間行事を丹念に撮影している。日常生活のなかに押し込められていた「佳きエネルギー」が爆発するようなそれらの写真を包み込むように、「はれ」の日のなかの「はれ」の日というべきお花見の場面が並ぶ。それを見ると、咲き誇る桜の花が、やはりどこか心をワクワクさせるような不思議な力を秘めていることがよくわかる。これらの写真を通じて齋藤が確認しようとしているのは、やや月並みな言い方になってしまうが、日本人の感性のルーツ1だろう。世界中を回遊する日々の果てに、もう一度写真家としての原点に回帰したいという思いに至ったのではないだろうか。
人々の晴れやかな笑顔を見ていると、これらの写真の持つ意味がやはり震災後に切実なものに変わってしまったと感じざるをえない。かまくら(秋田県)、みちのく芸能祭り(岩手県)など、東北地方で撮影された写真が多かったので、そう感じたのかもしれない。この時期だからこそ発表したかったという齋藤の気持ちが伝わってきた。なお写真展にあわせて、手にとりやすい同名の写真集もパイインターナショナルから刊行された。
2011/09/01(木)(飯沢耕太郎)