artscapeレビュー

高木こずえ「SUZU」

2011年10月15日号

会期:2011/09/03~2011/10/01

TARO NASU[東京都]

高木こずえの潜在能力の高さは、誰もが認めざるをえないだろう。コンスタントに水準以上の作品を生み出していく安定感は、2006年に写真新世紀グランプリを受賞してのデビューからまったく変わりはない。
今回展示された「SUZU」は、2010年に『MID』と『GROUND』のシリーズで第35回木村伊兵衛写真賞を受賞した直後、生まれ故郷の長野県諏訪に100日あまり滞在して撮影・制作したものだ(信濃毎日新聞社から同名の写真集も刊行)。若い写真家が写真撮影を通じて自らの“ルーツ”を確認するというのは、とかくありがちなことだが、高木にかかると一筋縄ではいかない作品ができ上がってくる。諏訪大社の御柱祭、近親者のスナップのようなそれらしいテーマを扱っても、彼女のなかにセットされているイメージ変換の回路が作動して、何とも不可思議な、宇宙的としかいいようのない時空が姿をあらわしてくるのだ。画面に浮かび上がる円や矩形の幾何学的なパターンも、普通ならとってつけたような印象を与えるところだが、それほど違和感なく共存している。タイトルの「SUZU」というのは、撮影の間「はるか遠くで鳴る小さな鈴の音」に耳を澄ましていたということから来ている。たしかに、その幻の鈴の音がこちらにも聞こえてくるように感じる。そういえば、高木が「SUZU」のように日本語を作品のタイトルにしたのは、もしかするとはじめてかもしれない。これまでは「insider」「MID」「GROUND」など、英語のタイトルが多かったのだ。作品制作の動機と同様に、写真家としての原点を問い直すという志向が彼女のなかに芽生えつつあるのだろうか。
なお、写真集の刊行にあわせて、長野県長野市のホクト文化ホール ギャラリー(長野県民文化会館)でも同名の展覧会(9月14日~19日)が開催された。

2011/09/15(木)(飯沢耕太郎)

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