artscapeレビュー
石川直樹「8848」
2011年10月15日号
会期:2011/09/09~2011/10/22
SCAI THE BATHHOUSE[東京都]
前回の同じ会場での個展「POLAR」(2007年)でも感じたのだが、石川直樹はSCAI THE BATHHOUSEと相性がいいのかもしれない。東京・谷中の元銭湯だった天井の高い建物の壁面にゆったりと並べられた作品の雰囲気が、彼の柔らかく伸び縮みする眼差しのあり方にぴったりしているのだ。
彼にとっては2度目になる、世界最高峰、エベレスト登頂の記録というテーマもよかったのではないか。人類学的な志向が強い「ARCHIPERAGO」(2009年)や「CORONA」(2010)年は、視点の拡散によって落着きがなく、締まりのない写真の羅列になってしまっていた。今回の「8848」では、めざすべきエベレスト山頂の三角形のイメージが、何度も繰り返し登場してくることで、写真にくっきりとした方向づけができている。何といっても、標高8,000メートルを超える場所の、極限に近い状況が写真に写り込んでくることで、ぴんと張りつめた空気感が展示全体を引き締めていた。石川直樹には、やはり「冒険家」のポジションがよく似合うということだろう。
それにしても、いつも感じることだが、旅の途上で出会った現地のシェルパ族の人々との交友や、準備段階での日常的な場面の写真は必要なのだろうか。これらの写真を入れ込むことが、どうもある種の決まり事のようになっているように見える。石川にいま必要なのは、何を見せて何を落とすのかをより厳密に判断していく、制作行為におけるストイシズムではないかと思う。
2011/09/16(金)(飯沢耕太郎)