artscapeレビュー
北野謙 展「our face project: Asia」
2012年01月15日号
会期:2011/11/26~2012/01/29
MEM[東京都]
北野謙がこのところずっと取り組んでいる「our face」は、特定の社会集団の構成員たちを撮影したポートレートを、目の部分で重ね合わせて多重露光した合成写真のシリーズである。そのたたずまいが、近作ではやや違ってきているのを、今回の個展で確認することができた。以前は重ね合わされたひとりの人物(実際には数十人のモデルの画像の合成なのだが)の周囲は黒く落とされていることが多かった。ところが、近作では中心の人物が闇の中から浮かび上がってくるような画面の周辺部分に、別の人物の顔や周囲の風景などが写り込んできている。たとえば「2003年3月8日World Peace Now 米英軍のイラク攻撃反対5万人パレードに参加して歩く人びと30人を重ねた肖像 東京日比谷公園~銀座の路上で」では、さまざまなポーズをとるデモの参加者たち、戦争反対のスローガンなどが、背後に浮遊霊のように漂っているのが見える。そのことによって、画面にすっきりとした安定感はなくなったのだが、逆に現代社会の混沌とした状況が、より生々しく浮かび上がってきているように感じた。今回の展示ではインドネシアからイラン北部のクルド人居住区まで、アジア各地で撮影された作品19点を「路上」「宗教、信仰」「子ども」「戦争」「民族」「職」に分けて展示している。また2011年11月20日までに撮影した5,134人を重ねた「全集積」を、デジタルデータで見ることができるモニターも設置されていた。さらに「our face」制作のきっかけになった、メキシコ・シティのディエゴ・リベラ作の大壁画《メキシコの歴史》の複写も展示された。歴史のなかの人間像を、圧倒的な迫力で描写したこの壁画を撮影し、モザイク状に再構成したことから、合成写真のアイディアが生まれてきたのだという。充実したいい展示だと思う。
2011/12/04(日)(飯沢耕太郎)