artscapeレビュー
世界制作の方法
2012年01月15日号
会期:2011/10/04~2011/12/11
国立国際美術館[大阪府]
おもに70年代生まれの日本人アーティスト9組を集めた展覧会。アートが個人的な表現にもとづいている以上、それぞれにとっての「世界制作の方法」が開陳されたことは言うまでもないが、なかでももっとも強い印象を残したのが、クワクボリョウタ。暗がりのなかを鉄道模型が走るインスタレーションを発表した。列車の先頭に小さなLEDライトを組み込んでいるため、列車の進行とともに線路の周囲に配置された日用品の影が展示会場の壁を次々と走ってゆく。洗濯ばさみや色鉛筆、ザル、ゴミ箱などの小さな物体の影が、壁面に大きく映し出されて、やがて消えていく光景は圧倒的に美しい。空間全体に影が移ろっていくから、まるでその電車の車窓から影の世界を見上げているかのように錯覚するほどだ。しかも、線路と街並みのミニチュアは入念に計算されて設置されているのだろう、影の風景がドラマティックに展開するところが、なんとも心憎い。100均で購入できるような日用品を使うアーティストは数多いが、それらをこれほどまでに美しく活用するアーティストは数少ない。しかし、このように身の回りにある素材で現実を空想に反転させる「世界制作の方法」は、じつは誰もが幼少時に試みたはずであり、おそらくは古来から人間が繰り返してきた遊戯=想像力=芸術だったようにも思う。クワクボリョウタの作品が映し出していた影の裏には、そうした原点から離れてしまった「現代アート」ないしは「メディアアート」が隠れているかのようだった。
2011/11/25(金)(福住廉)