artscapeレビュー

春木麻衣子「view for a moment」

2012年01月15日号

会期:2011/11/18~2011/12/24

TARO NASU[東京都]

春木麻衣子のように、しっかりと自分の進むべき方向を見出しつつある写真作家の作品を見るのは愉しい。2010年のTARO NASUでの個展「possibility in portraiture」のあたりから、彼女の作品の中には人間(通行人)が登場し始めた。風景に人の要素が組み込まれることで、作品がより観客に開かれた印象を与えるものになりつつあるのだ。今回展示された新作「view for a moment」でも、明快なコンセプトと鮮やかな作画の手際が、気持ちよく目に飛び込んできた。パリの路上で撮影されたこのシリーズは、2つの場面をひとつの画面におさめたもので、ちょうど中央部分に縦長の黒いスリットが入っている。これはフィルムの2つのコマのつなぎ目であることが、写真を見ているうちにわかってくる。そのスリットを挟んで、2人の人物が写っているのだが、それぞれの体の大部分はスリットに隠れて見えない。つまり、人物がカメラのフレームから外に出ていこうとする瞬間、フレームに入り込んでくる瞬間にシャッターを切っているのだ。タイトルに「51 seconds」とか「112seconnds」とか表記してあるのは、最初のシャッターを切り、次のシャッターを切るまでの秒数をストップウォッチで測ったのだという。フィルムのコマとコマのあいだ、スリットの部分で何が起こっているのか、その「見えない部分」へと観客の視線を導くことで、観客の想像力が大いに喚起される。実に巧みな仕掛けだが、コンセプトが上滑りすることなく、視覚的なエンターテインメントにきちんと結びついているのが、気持ちのよさの理由だろう。写真作家としての総合的なレベルが、一段階アップしたように感じる。

写真:318 seconds, from the series “view for a moment” 2011 type C print
© Maiko Haruki Courtesy of TARO NASU

2011/12/06(火)(飯沢耕太郎)

2012年01月15日号の
artscapeレビュー