artscapeレビュー
東松照明「太陽の鉛筆」
2013年05月15日号
会期:2013/03/21~2013/04/15
オープンギャラリー(品川)[東京都]
昨年12月14日の東松照明の死去は、さまざまな波紋を呼び起こしつつある。その多面的な活動と影響力の広がりという点で、彼の存在の大きさがあらためてクローズアップされたと言ってもよい。東松を失ったことで、「戦後写真」の枠組みそのものが大きく変わっていくのではないだろうか。
東松の没後最初に開催されたのが、品川のキヤノンSタワー2Fのオープンギャラリーに展示された「太陽の鉛筆」展だったことは印象深い。1972~73年に本土復帰を挟んで1年近く滞在した沖縄で撮影されたスナップショットを中心としたこのシリーズは、東松の代表作であるとともに、彼の作風の転換点に位置づけられる作品だった。東松はこのシリーズを契機として、それまでの被写体を強引にねじ伏せるような撮り方ではなく、そのたたずまいを受容し「まばたきをするように」シャッターを切っていく融通むげなスタイルへと向かっていったのだ。
今回展示されたのは「キヤノンフォトコレクション」として収集、保存されているプリントだが、すべてデジタルプリンターで出力している。よく知られているように、東松は2000年代以降、撮影とプリントのシステムをすべてデジタル化した。今回あらためてデジタルプリントの「太陽の鉛筆」を見直して、やはり多少の違和感を覚えずにはおられなかった。たしかにモノクロームの明暗のバランスやディテールの描写はほぼ完璧なのだが、インクジェットプリント特有の「希薄さ」がどうしても気になるのだ。全体に薄膜がかかったようなインクの質感には、そのうち少しずつ慣れてくるのかもしれない。だが、銀塩の印画紙のしっとりとした重厚さが完全に消えてしまうのは、あまりにも惜しい気がする。
なお、併設するキヤノンギャラリーSの開設10周年を記念して、同ギャラリーとキヤノンギャラリー銀座では「時代に応えた写真家たち」と題する連続展が始まった。立木義浩、田沼武能、淺井慎平、中村征夫、野町和嘉、水谷章人、竹内敏信、齋藤康一の作品が次々に展示される。写真家とカメラメーカーが手を携えて時代をリードしていった1960~70年代の写真表現を、あらためて見直すよい機会になるだろう。
2013/04/11(木)(飯沢耕太郎)