artscapeレビュー

上田義彦「M. River」

2013年05月15日号

会期:2013/03/22~2013/05/05

Gallery 916[東京都]

上田義彦が個展「Materia」で、竹芝の倉庫を改装したギャラリー916をスタートさせてから1年が過ぎた。この間にラルフ・ギブソン、有田泰而、Y. Ernest Satowなどを含む意欲的な展示を実現したのだが、今回は再び自作を展示している。
新作の「M. River」は、前回の展示に続いて屋久島の森で撮影された作品である。偶発的なブレやボケを大胆に作品のなかに取り込んでいった「Materia」の試みはさらに先に進められており、展示作品は「写真に欠くことのできないディテールをあきらめ」ることで、大づかみな光と影のマッスがぼんやりとした像を形成するものがほとんどだ。150×119センチの大判プリント(20点)と、かなり小さめの24.9×19.4センチサイズのプリント(12点)を交互に並べていく展示構成も面白かった。森を行きつ戻りつするときのリズミカルな視線の動きを、展示によって追体験するように仕組まれているのだ。ただ、似たようなピンぼけの画像がこれだけ並ぶと、むしろ絵画的な要素が強まり、全体として均質な印象が強まってしまう。森のダイナミズムをどんなふうに作品化していくのかについては、もう少し試行錯誤が必要なのではないだろうか。
なお、今回からメインギャラリーに付設された916Smallでも,展覧会が同時開催されるようになった。今回は石塚元太良が19世紀のゴールドラッシュ時代の廃屋をアラスカで撮影した「GOLD RUSH ALASKA BONANZA TRAIL」が展示されている。いきのいい若手写真家たちに開放していくと、やや「広過ぎる」嫌いがあったギャラリースペースにも活気が生まれてきそうだ。

2013/04/06(土)(飯沢耕太郎)

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