artscapeレビュー

古賀絵里子「一山」

2013年05月15日号

会期:2013/04/05~2013/04/30

EMON PHOTO GALLERY

2015年には弘法大師、空海が開宗してから1200年を迎えるという高野山金剛峯寺。その深遠な宗教空間の魅力に惹かれて、撮影を続けてきた写真家たちも多いが、古賀絵里子の新作はそれらとはひと味違っているのではないかと思う。
彼女は2009年に写真展の仕事で初めて高野山を訪れ、すぐに「撮りたい」という衝動に駆られたのだという。ついには高野山の域内にアパートの一室を借り、月に一度、一週間ほど訪れて撮影するようになった。だが、風景を中心に考えていたアプローチに次第に限界を感じ、「結局、私にとって『写真』以前に『人』が在るのだ」という認識に達する。結果的に今回発表された「一山」には、高野山の僧侶をはじめ、彼女が撮影の過程で出会った「人」のたたずまいが、大きな要素を占めるようになった。そのことによって、高野山を宗教や自然によって形づくられる超越的な場として捉えるだけではなく、温かみのある人と人とのふれあい、交流の場として見直す、ユニークな視点を確保することができた。その6×6判の柔らかに伸び縮みするようなフレーミングと、どこかなまめかしい色彩やテクスチュアの表現は、文字通りの「女人高野」の実現と言えるのではないだろうか。
もうひとつ思ったのは、一枚一枚の写真が見る者に何ごとか語りかけてくるような質を備えているということだ。写真に写っている人物たち、さらにモノや風景もまた、口を開き、それぞれの物語を語り伝えてくれそうな雰囲気をたたえている。ゆえに、もしこのシリーズを写真集として刊行するなら、テキストが大事になってきそうな気がする。古賀自身が、自分の体験を言葉に綴って写真に添えるのが一番いいのではないだろうか。

2013/04/10(水)(飯沢耕太郎)

2013年05月15日号の
artscapeレビュー