artscapeレビュー
碓井ゆい 個展「shadow of a coin」
2013年05月15日号
会期:2013/03/20~2013/04/13
studio J[大阪府]
廃材やお菓子の包み紙を使った作品、陶器作品など、これまでさまざまな手法で表現に取り組んできた碓井ゆい。2010年から3年ぶりとなる個展を同ギャラリーで開催していた。会場で真っ先に目に入ったのは1円玉と50円玉をモチーフにしたオーガンジーの円形の作品。空中に吊るされていたそれらは、家事をする女性の姿や「NO NUKES」という文字などが刺繍されていた。じつは使われている糸も色鮮やかなのだがそれは裏側に回って見ないと分り難い。スペースの奥には、1919年にフランスのゲラン社によって発売された「MITSOUKO(ミツコ)」という香水と、その名前の由来を示す解説、そして旧日本軍の従軍慰安婦につけられた日本の源氏名を小さな古いガラス瓶にラベリングした作品がずらりと並んでいた。ピラミッド形に並んだ小瓶は、一番上のひとつの瓶の名前が「ミチコ」、二段目が「マサコ」、「アイコ」。私自身は説明を聞くまで気づくことができなかったのだが、それは皇室を頂点とする当時のヒエラルキーや女性の名前のイメージとその文脈などを象徴するものだった。政治と歴史、社会的な事柄について、自らの実感と丁寧な取材をもとに表現された違和感、そのアプローチが素晴らしい個展だった。
2013/04/12(金)(酒井千穂)