artscapeレビュー
ロバート・フランク写真展 PART1 THE LINES OF MY HAND
2013年05月15日号
会期:2013/04/02~2013/04/27
gallery Bauhaus[東京都]
ロバート・フランクの写真を見ていると、スナップショットの面白さにあらためて目を開かれる思いがする。「日常の瞬間をさっとかすめ取るように掴まえてくる写真」という具合に言葉にしてみれば、単純で明快な手法に思えなくもないが、ちょっとでも撮影の経験があれば、それがどれほどの困難をともなうのかはよくわかるはずだ。むろん、フランク自身も規範にしたはずのアンリ・カルティエ=ブレッソンの「決定的瞬間」の写真のように、目のまえの出来事を完璧な構図の中におさめることは、たしかに優れた視力とカメラの操作力は必要だが、多少の努力をすれば到達可能かもしれない。だが、フランクのスナップショットに見られる微妙な間合い──むしろその瞬間の前後の場面を空気感ごと捉える能力は、これは天性の才能としか言いようがない。
今回展示された42点は、1972年の写真集『私の手の詩』(邑元舎、英語版のタイトルはTHE LINES OF MY HAND)に収録された写真から選択されている。元村和彦の編集によるこの写真集は、まさにフランクのそれまでの生涯を辿るように構成されているので、1948年撮影の「PERU」から、70年代の作品まで年代的な幅がかなり広い。そのため、彼の眼差しのあり方が、逆にくっきりと浮かび上がってくると言えそうだ。また、トリミングのために貼られた紙テープ、フィルムを巻き上げるための穴の痕がそのまま周辺に残ったプリントなど、元村の手元に残されていたヴィンテージ・プリントならではの生々しさがある。写真家の息づかいがそのまま感じられる、稀有な視覚的体験と言えるだろう。
なお、5月1日~6月1日には「PART2」として、フランクがカナダ・ノヴァスコシアに居を移した1970年代以降の写真47点による「QUIET DAYS」が開催される。
2013/04/09(火)(飯沢耕太郎)