artscapeレビュー
古賀絵里子「一山」
2015年05月15日号
会期:2015/04/01~2015/04/10
エモン・フォトギャラリー[東京都]
古賀絵里子は2009年にはじめて高野山を訪れ、ほとんど啓示としかいいようのない「決定的」な衝撃を受ける。とりわけ、その奥の院は「六感にまで訴えかけてくるようで、その独特の雰囲気には圧倒された」という。翌月から、月一度ほどのペースで通い詰め、2010年の春からは山内に撮影の拠点となるアパートを借りた。だが自然の景観を中心に撮影していた写真には、3年ほどで行き詰まりを感じ、それからは高野山に暮らす人々にも、積極的にカメラを向けていくようになる。「「写真」以前に「人」がある」と考えたからだ。そうやって、少しずつ「一山(いっさん)」のシリーズが形をとっていった。
このシリーズは、既に2013年に、同じエモン・フォトギャラリーで個展の形で発表されたことがある。その後も着実に撮り続けて枚数を増やし、展覧会と同時に発売された写真集(赤々舎刊)の収録作品は、100点にまで膨らんだ。今回は、そのうち40点を選んで展示している。シリーズとしての骨格は、2年前の個展の時にでき上がっていて、それほど大きな変化はない。だが、単純に枚数が増えただけではなく、その間に結婚して京都に移り住むという大きな出来事を経験したこともあり、写真を選び、並べていく手つきに、揺るぎない確信と深みが加わったように感じる。1枚1枚の写真が伸び広がり、結びつき、照応し合ってあらわれてくる世界に、女性らしい細やかさを残しながらも、堂々とした風格が備わってきているのだ。タイトルの「一山」というのは、高野山の別名であるだけでなく「ある一つの山」という意味でもあるという。つまり、固有名詞である高野山に収束するだけではなく、より普遍的な、人と自然と宇宙との出会いの場をイメージして作品を作り続けているということだろう。そのことが、たしかな実感をともなって伝わってきた。
こうなると次作も楽しみになってくる。いい意味で期待を裏切って、新たな領域にもチャレンジしていってほしい。なお本展は、2015年4月18日~5月10日に、京都・妙満寺に会場を移して開催される。
2015/04/02(木)(飯沢耕太郎)