artscapeレビュー

西山美なコ・小松敏宏「On the Exhibition Room」

2015年05月15日号

会期:2015/03/28~2015/04/18

CAS[大阪府]

「空間の中に(in)ある美術作品ではなく、美術作品が導く場所について(on)の意識を前景化する」ことを、小松敏宏と西山美なコの作品を通して試みた二人展。
小松敏宏の作品は、展示室の壁の向こう側に存在する空間を撮影した写真を、同寸で当の壁に貼り、写真の縁と白い壁の境界線を曖昧にぼかすことで、外部の現実空間をホワイトキューブの中へ召喚してみせる。ギャラリーの事務所、作品の保管場所、廊下や階段、非常灯……あたかも壁の向こう側を「透視」しているかのように、壁の一部が透明化したような錯覚に陥る。ただし、それは「写真」であるがゆえに、現実空間との時間差をはらんでいる。「透視」しているのは、現実にあった空間だが、既に過去のものなのだ。小松の作品は、純粋なホワイトキューブとして虚構化された空間を、写真というイメージを用いて、「今ここ」の現実とは微細な差異を伴ったものとしてもう一度虚構化するような、ねじれた構造をはらんでいる。
一方、西山美なコは、展示室の壁のみならず、天井や梁にまで、鮮やかなピンクの曲線によるウォール・ペインティングを展開した。それは紋様化された植物や花のようにも、飛沫のようにも見え、フラクタルのようにどこまでも増殖しながら空間を覆っていく。また、描線の上に白い絵具を薄く塗り、さらにその上から描線を重ねることで、ギャラリー空間の「壁」の物質性は後退し、絵画的イリュージョンが生成する場へと変貌していく。
ホワイトキューブの虚構性に裂け目を入れつつ、写真というメディウムの特性によって再虚構化するような小松と、物理的な壁を支持体としつつも、イリュージョンの生成によって半ば非物質化させていく西山。物理的な「壁」を出発点としつつ、写真/ペインティングというメディウムの違いによって、異なる空間を呼び込んだ両者の対比が興味深い展示だった。

2015/04/17(金)(高嶋慈)

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