artscapeレビュー
山崎弘義「DIARY 母と庭の肖像」
2015年05月15日号
会期:2015/04/28~2015/05/04
新宿ニコンサロン[東京都]
大隅書店から刊行された同名の写真集に目を通していて、山崎弘義の「DIARY 母と庭の肖像」については、ある程度理解しているように思っていた。だが、作品27点(うち5点は大伸ばし)による新宿ニコンサロンでの展示を見て、違う景色が見えてきたように感じた。
一つは、認知症の母親のポートレイトとカップリングされた庭の片隅を撮影した写真についてである。どうしても、母親の方に目が行きがちなのだが、「日記」として同じ日に撮影された「庭の肖像」の方もなかなか味わい深い写真群であることが見えてきた。母親の顔つきや身体の変化と呼応するように、庭もまた姿を変えていく。秋から冬へ、そして春が巡ってくるとともに、植物たちも枯れてはまた芽吹く。よく見ると、草木の生え方も、前の年とはかなり様相が変わっていることに気がつく。つまり、自然という「もう一つの時計」がこの作品には組み込まれているわけで、そのことが重要な意味を持っていることがよくわかった。
もう一つは、写真に付されたキャプションが、作品全体に柔らかなふくらみを与えているということだ。むろん介護の過程の描写は、切実に身につまされるものが多いのだが、そこにほんのりとしたユーモアを感じることがある。「(母親が)盛んに服を脱ごうとする。脱ぐ...。私「やめろ」。脱ぐ...。私「やめろ」。脱ぐ...。私「やめろ」」(2002年2月27日)という件を読んで、思わず笑いがこみ上げてきた。言葉と写真との呼吸が、絶妙としかいいようがない。
写真集が刊行され、写真展が開催されて、このシリーズも一区切りという所だろう。それでもこれで終わりというのではなく、また別の形で続いていきそうな気がしてきた。写真の大きさ、出品(掲載)点数なども、まだ確定する必要はないと思うし、その後に撮影された写真とのコラボレーションも充分に考えられそうだ。むろん「DIARY──母と庭の肖像──」以後の新作にも期待したいが、山崎にとって、このシリーズは今後の写真家としての活動の基点になっていくのではないだろうか。
2015/04/30(木)(飯沢耕太郎)