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ボンボニエール──掌上の皇室文化
2015年05月15日号
会期:2015/04/04~2015/06/06
学習院大学史料館[東京都]
ボンボニエールとは、皇室の慶事、饗宴の際に列席者に配られる小さな菓子器。その名称はフランス語のボンボン入れ(bonbonniére)に由来するが、日本では中に金平糖が入れられることが多い(ミント菓子の例もあるという)。戦前期のそれはおもに銀製で雛道具のようなミニチュアの器だったり、実用的な形をしているものもあるが、兜や飛行機を模した器とはいえないような造形もあり、工芸品としてもとても魅力的なオブジェである。今回の展覧会では、学習院大学史料館が所蔵するボンボニエール約250点のなかから、時代や形を特徴付ける70点が出品され、時代による素材の変遷、造形のヴァリエーション、ボンボニエールを引き出物として配布する行為の皇室以外への拡がりが示されている。また、同型のボンボニエールの製作者による違いも紹介されている。
本展を企画した長佐古美奈子学芸員によれば、皇室の慶事にボンボニエールが配布された最初の公的な記録は、明治27年3月に行なわれた「明治天皇大婚二十五年祝典」だという。「式典挙行に際し、各国駐在公使がヨーロッパ王室の銀婚式儀礼を調査し、周到な準備がなされた」。そしてこのときに、「この饗宴に招かれ、陪席した六二一人には『岩上の鶴亀を付した』銀製菓子器が配られ、立食の宴に参加した一二〇八人には『鶴亀の彫刻ある銀製菓子器』が配られた」という。明治維新後の「欧化政策」のなかで宮中の饗宴が外交手段の一翼を担うようになったこと、日本における引出物・引菓子の風習、ヨーロッパで慶事の際に砂糖菓子を贈る習慣、明治の輸出工芸にも現われた小型の銀製容器、こうした諸条件を満たす配布物がボンボニエールだったのではないかと長佐古学芸員は推察している 。こうして見てくると、ボンボニエールは見て楽しい工芸品であるばかりではなく、その登場、素材や意匠の変遷は、明治以来の日本の外交政策のあり方、社会・経済の状況と密接に結びついた歴史の証人でもあるのだ。[新川徳彦]
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2015/04/25(土)(SYNK)