artscapeレビュー
笠井叡『今晩は荒れ模様』
2015年05月15日号
会期:2015/04/25
京都芸術劇場 春秋座[京都府]
ひたすら「踊ること」に捧げられた2時間に圧倒された。笠井叡の振付・演出により、上村なおか、黒田育世、白河直子、寺田みさこ、森下真樹、山田せつ子という錚々たる顔ぶれの女性ダンサー6人によるソロとデュオが展開されていく。衝撃を受けたのは、「振付」がなされているようにはまったく見えなかったこと。とりわけ、嗚咽のような声を上げながら破壊と慈しみの両極を行き来するような黒田育世の激しさと、異次元を切り開くような凄まじい熱量を放つ白河直子の踊りに打たれた。
アフタートークで笠井は、「即興はなく、呼吸の入れ方まで含めて振付けている」と語っていたが、出演した笠井自身も6名のダンサーも、ただ踊るためにそこにいて、その歓びと切実さをそれぞれ異なる言葉でクリアに身体が語っていた。初めて実見するダンサーもいたが、にもかかわらず、あの約20分間の踊りでどういう人なのかが伝わってしまう。躊躇いなく剥き出しにすることができる身体の強さが、圧倒的な強度で空間を埋めていく。エネルギーを放射していく。それを鎮めていく。ここでの「振付」とは、外側から形を与えて操作することではなく、本質でない部分を見極めて削いでいく作業を言うのだろう。この過酷で困難な作業をやり遂げた振付家とダンサーたちは、終盤、真紅のドラァグクイーンの衣装をまとった笠井を囲んで踊り、狂乱の嵐のような時間が吹き荒れた。
2015/04/25(土)(高嶋慈)