artscapeレビュー
菱沼勇夫「彼者誰」/「Kage」
2015年05月15日号
会期:2015/03/31~2015/05/03
菱沼勇夫は1984年、福島県生まれ。2004年に東京ビジュアルアーツ卒業後、11年からTOTEM POLE GALLERYのメンバーとして活動している。
若い写真家が急に力をつけてくる時期があるが、いま菱沼にそれが来ているのかもしれない。今回の連続展を見てそう思った。「彼者誰」は、35ミリ判のカメラで撮影された、どちらかといえば「私写真」的な色合いの強い作品である。被写体を見つめていく視点に安定感があり、その場の光や空気感を的確に判断して端正な画面におさめていく。一見バラバラな作品をつないでいくキー・イメージが、もう少しくっきりと浮かび上がってくるといいと思った。
注目すべきなのは、もう一つのシリーズの「Kage」の方で、こちらは6×6判で撮影されたイメージが並ぶ。ヌード、仮面をつけたセルフポートレート、窓ガラスの割れ目、炎、馬の背中のクローズアップなど、「彼者誰」よりも象徴性が強まってきているようだ。それらもバラバラに引き裂かれてはいるが、自分自身の記憶や感情のほの暗い深みに降りていこうという意欲をより強く感じる。ただこのままだと、作者も観客もどこに連れて行かれるかわからない宙づりの状態で取り残されてしまいそうだ。そろそろ作品全体の構想をしっかりと思い描きつつ、個々の被写体をつかまえていくアンテナをさらに研ぎ澄ませていくべきだろう。
この連続展に続いて、5月20日~30日にはZEN FOTO GALLERYで、旧作の「LET ME OUT」の展示がある(同名の写真集も刊行)。12月には再びTOTEM POLE PHOTO GALLERYでの展覧会も予定しているという。溜めていたものを一挙に吐き出し、次のステップに踏み出していってほしい。
「彼者誰」2015年3月31日~4月12日
「Kage」4月14日~5月3日
2015/04/16(木)(飯沢耕太郎)