artscapeレビュー
ガウディ×井上雄彦──シンクロする創造の源泉
2015年05月15日号
会期:2015/03/21~2015/05/24
兵庫県立美術館[兵庫県]
不思議な展覧会というのが第一印象だ。19世紀から20世紀にかけてスペイン・バルセロナで活動し、サグラダ・ファミリア聖堂やカサ・ミラの設計で知られる建築家、アントニ・ガウディ(1852~1926)と『SLAM DUNK』をはじめ数々の人気マンガを生み出した、漫画家、井上雄彦(1967~)の展覧会である。ちらしによると「奇跡のコラボレーション」だそうだ。ガウディに関しては、彼が携わった建築の図面や写真、模型などの資料をはじめ、ガウディの弟子であったジョアン・マタマラによる肖像画などおよそ100点が、井上の作品は書き下ろしの画、およそ40点が展示されている。昨年7月の東京展にはじまり、金沢展、長崎展を経て神戸での開催となった。このあと、せんだいメディアテークでの仙台展へと巡回する。
コラボレーションというよりも、井上がガウディからインスピレーションを得たといったほうが相応しいだろう。それほどまでに、本展での井上は挑戦的だった。井上は2011年にバルセロナでガウディの足跡を辿り、その作品から「謙虚さ」を感じたという。翌年から本展の企画がスタートし、2014年には井上は1カ月間サグラダ・ファミリアの前のアパートに滞在しカサ・ミラの一室にアトリエを構えて創作に励んだという。和紙に墨というスタイルで、ガウディの肖像や彼の少年期、青年期、老年期のエピソードをマンガ風に描いた。圧巻は、高さ200センチ幅200センチの墨染めの手漉き和紙に、白く浮かび上がるガウディ最晩年の顔を描いた一枚、そして、高さ330センチ幅1,070センチの広大な画面のなかに、生まれたばかりのひとりの赤ん坊を描いた一枚である。墨黒の闇と白い光のコントラスト、そして紙の質感、漫画家として培ってきた感性が惜しみなく発揮されている。さらにいえば、ガウディの死のあとに赤ん坊の誕生で展示を締めくくるというストーリー仕立ての劇的な演出も漫画家らしい。漫画家として、創作家として持てる力をすべて投入する、本展にむかう井上の、そんな謙虚な姿勢もガウディの影響だろうか。
ガウディは90年ほど前に亡くなった、すでに地位や評価が確立した偉人である。とはいえ、代表作のサグラダ・ファミリア聖堂はいまだ建築中だから未完の建築家ともいえる。そこに未知の残余があるからこそ、本展のような実験的な企画が成立したように思う。[平光睦子]
2015/05/04(月)(SYNK)