artscapeレビュー

アントワン・ダガタ「Aithō」

2016年01月15日号

会期:2015/11/28~2016/12/27

MEM[東京都]

写真家は多くの場合、外界へと伸び広がっていく志向と内面に深く沈みこむ志向とに引き裂かれている。だが、フランス・マルセイユ出身のアントワン・ダガタの場合、その振幅が極端に大きいのではないかと思う。ダガタはこれまで、娼婦やドラッグ中毒者を被写体として、快楽と痛みに引き裂かれる人間の存在を凝視する作品を発表し続けてきた。だが、今回東京・恵比寿のMEMで発表された新作「Aithō」では、一転して瞑想的な趣のあるセルフポートレートを試みている。
タイトルの「Aithō」は、イタリア・シチリア島の活火山、エトナ山のギリシャ名である。そこはダガタの一族の故郷であり、彼自身の出自にも深いかかわりを持つ土地だ。そこの古城で撮影したのが今回の49点のシリーズで、剥落し、染みや汚れのついた鏡の表面にぼんやりと彼の横顔が浮かび上がっている。やや下を向いて、目を閉じたその顔は、亡霊のように見えなくもないが、同時に奇妙に生々しい触感も備えている。「AIthō」という言葉は、元々「私は燃えている」という意味だという。冷ややかな鏡の中の像は、手が触れれば火傷するような熱を発しているのだろうか。
それにしても、ダガタが2004年以来マグナム・フォトスの正会員として活動しているというのは驚くべきことだ。マグナムは本来、報道写真やドキュメンタリーの写真家たちの団体だったはずなのだが、いつのまにかダガタのような、強烈に主観的な表現の写真家をも取り込みはじめている。時代が変わりつつあるということだろう。

2015/12/02(水)(飯沢耕太郎)

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