artscapeレビュー
林勇気展
2016年01月15日号
会期:2015/12/04~2016/12/05
FLOAT[大阪府]
ギャラリーほそかわでの個展と同時期に開催された、映像作家・林勇気の個展。林は、パソコンのハードディスクに大量にストックした写真画像を、1コマずつ切り貼りしてアニメーションを制作することで、現実と仮想世界の境目が溶解したポスト・インターネット的な感覚を提示する。また、画像の収集方法は作品毎に異なっており、林自身によるデジカメ撮影、一般公募で集めたもの、インターネットの画像検索という3パターンがある。つまり、パソコンやデジカメ、携帯電話のメモリといった個人の所有する記録媒体、あるいはネット上の共有空間に日々膨大な画像が蓄積され、共有され、消費されていくというメディア状況が、まさに可視化されている。
本個展では、元倉庫という空間の広さを活かし、壁面に加えて床や廊下、さらには開けた窓の奥の空間へと映像が浸透/浸食していくような展示がなされ、映像と現実の物理的空間が、ギャラリーほそかわでの個展とは別の形で交錯し合っていた。壁いっぱいに投影されたアニメーションでは、建物、樹木、草花、家電製品、食べ物、車など、切り抜かれた無数の画像が、川面を漂うようにゆっくりと流れていく。床には本の束や箱、ミラーボールが一見雑多に置かれているが、これらの影は、アニメーションの上に街並みやTV搭のシルエットを描き、影絵のレイヤーを形づくる。一方でアニメーションの映像は、廊下や床にまで映り込み、現実の物理的空間の表面を浸食していく。しかし、廊下の突き当りで振り向くと、プロジェクターの眩しい光が視界を襲う。映像の非物質性、そして映像とは光を見ていることに他ならないことを再認識させる仕掛けである。
また、展示場所のFLOATは、元倉庫のアーティスト・ラン・スペースだが、2015年12月末でクローズとなった。別の映像作品では、倉庫の内外で撮影したスナップ写真の上に、小さく切り抜かれた無数の画像がふわふわと漂っていく。倉庫として使用された履歴、いくつもの展示の記憶を内包した場所の性格に加え、ミラーボールやアンビエントな音楽など、空間を感傷的に満たす光や音の作用も影響して、匿名的な記憶の断片が織りなす川の流れや星雲のようなイメージ、その儚い美しさが際立っていた。
2015/12/05(土)(高嶋慈)