artscapeレビュー
2012年02月01日号のレビュー/プレビュー
風景の逆照射
会期:2012/01/06~2012/01/21
京都精華大学ギャラリーフロール[京都府]
風景(自然、環境、世界などの総称)と人間の相関関係を問い直し、現在のわれわれに根付いた西洋近代的な思考そのものを見直そうという、壮大なテーマに基づいた企画展。テーマがあまりにも巨大なのと、「風景」という言葉の扱いに戸惑ったのだが、美術家、建築家、俳人、科学者、哲学者が参加し、全員が作品という形態で発表を行なったのは興味深かった。また、本展の図録では個々の文章だけではなく、クロスジャンルの往復書簡も掲載されており、企画意図を知るうえで非常に役立った。出品者は、柏原えつとむ、木下長宏、杉浦圭祐、坪見博之、森川穣、林ケイタ、濱田陽、安喜万佐子、山中信夫、RADの10組。
2012/01/07(土)(小吹隆文)
窓の表面 スロー&テンス アトモスフィア2011
会期:2011/12/15~2012/01/29
雅景錐[京都府]
写真家でクリエイティブ・ディレクターのアマノ雅景が、オルタナティブスペース「雅景錐」を開設。今年3月の正式オープンを前にプレ企画展を開催した。その内容は、アマノ、有元伸也、ニック・ハネス、平久弥、ヴァンサン・フルニエの5組による写真&絵画展で、世界の諸相を、作品という窓を通して覗き込むというものだ。ニューヨークの同時多発テロ現場近くで、行方不明者を探す張り紙を見つめる人々、旧共産主義国家の廃れた施設、現実離れした宇宙開発基地などを捉えた写真などが並んでいる。本展はアマノが2009年から10年計画で取り組んでいるプロジェクトの第2弾であり、2月には規模を拡大して大阪のフランダースセンターにも巡回される。京都ではここ数年、さまざまなタイプのオルタナティブスペースが産声を上げており、新たなアートシーン形成の可能性を秘めている。雅景錐もそのひとつとして要注目だ。
2012/01/07(土)(小吹隆文)
チャールズ&レイ・イームズ『コンピュータ・パースペクティブ──計算機創造の軌跡』
スティーブ・ジョブズの訃報はいまだ記憶に新しいが、改めて一度、コンピュータの発達史を図入り資料で振り返ってみるのもいいだろう。本書は、建築家/デザイナーのチャールズ&レイ・イームズのオフィスが企画した、IBMによる同名の展覧会(1968年に起案、71年に実現)を書籍化したもの。イームズ夫妻はIBM社に20年間にわたって参画し、50以上の映画・展覧会・書籍をつくった。本書は1890年代におけるチャールズ・バベッジの「解析機関」にはじまり、1950年前後の巨大な計算機器(UNIVACや米空軍が依頼したSEAC)の登場で終わっている。丹念に集められた膨大な歴史資料と写真の数々に目を瞠らされる。イームズが人々に「科学」をヴィジュアルに見せるにあたっていかに力を注いだかについては、《パワーズ・オブ・テン》など、ショート・フィルムの存在がよく知られていよう。読了後、戦後アメリカのインダストリアル・デザインを育てた土壌とそこで活躍したイームズ夫妻の創造的営為がまず脳裏に浮かび、続いて彼らの「科学と芸術」の融合にかけた情熱のひたむきさに胸打たれた。[竹内有子]
2012/01/09(月)(SYNK)
池袋モンパルナス展
会期:2011/11/19~2012/01/09
板橋区立美術館[東京都]
近年、同美術館が熱心に研究している「池袋モンパルナス」の集大成ともいえる展覧会。「池袋モンパルナス」とは、1930年代の池袋近辺に建造されたアトリエ付の住宅に集まった美術家たちのコミュニティ。詩人の小熊秀雄が書き残した同名の詩に由来している。本展では、「池袋モンパルナス」に集った寺田政明、麻生三郎、靉光、松本竣介、古沢岩美、長谷川利行などの絵画作品を中心に、当時の地図、画家たちによる日記、関連する映像などもあわせて展示された。アトリエの間取りを会場の床面に描き出し、その空間を来場者に体感させるなど、絵画作品とテキストによって研究成果を発表する従来の学芸員的手法から一歩踏み込み、より多角的に研究対象をとらえようとしているところが高く評価できる。とはいえ、であればこそ、今以上に美術館活動から踏み出す挑戦があってもよかったと思わないでもない。たとえば、アトリエの所在が把握できているのであれば、当時の地図を手に現在の街並みを歩くツアーを参加者とともに行なえば、画家たちの行動範囲をよりいっそう実感することができるだろうし、その街歩きによって新たな事実が発見されるかもしれない。歴史を全体的に解明するには、ある程度偶然性に任せたイベントが有効なのではないだろうか。「池袋モンパルナス」を美術史に位置づけるだけでなく、美術以外の文化や社会、政治との接合面によって定位することを望むのであれば、「美術」から一歩踏み外す勇気が不可欠である。
2012/01/09(月)(福住廉)
花塚愛 展
会期:2012/01/07~2012/01/22
ギャラリー器館[京都府]
花塚愛は過剰装飾のデコラティブな陶器を制作する作家だ。作品は、紐作りで成形したボディに造形したピースを貼り重ねていく方法で制作されている。目玉、鱗、植物、縄目模様、蛙の卵のような粒々などで埋め尽くされ、カラフルに着色された表面からは、匂い立つようなエロティシズムや呪術的なパワーが感じられる。アール・ブリュットとの類似性を指摘する人もいるのではなかろうか。しかし、実物を見れば、彼女の作品とアール・ブリュットの違いは一目瞭然だ。装飾の造作は細部まで隙がなく、着色にも緻密な計算が感じられる。むしろ日本人特有の細密工芸への偏愛という観点から評価すべきかもしれない。
2012/01/10(火)(小吹隆文)