artscapeレビュー
2012年02月01日号のレビュー/プレビュー
白井忠俊 展─千年螺旋─
会期:2012/01/07~2012/01/28
INAXギャラリー2[東京都]
「円筒絵画」の白井忠俊の個展。青緑の蛇肌を描いた平面作品を円筒状に仕立てて見せた。ぬめりのある蛇肌が重なり合うだけでもえぐいのに、それを円筒の表面に貼りつけているから、蛇のとぐろがそのまま再現されているようで、その迫力によりいっそう凄みが加えられている。360度から鑑賞できるという点では、正面性を求める絵画というより彫刻に近いのかもしれないが、白井の「円筒絵画」があくまでも絵画であるのは、油絵具を厚く盛りつけることで鱗のように見せる工夫を凝らしていること以上に、それが対象の無限性を描写しようと試みているからだ。蛇の頭を確認することはできるが、その胴体は果てしなくとぐろを巻いており、それはどこまでいっても中心にたどり着かない無限の螺旋回廊のようだ。世界を四角いフレームに収めることで、その向こう側を想像させることが絵画の基本的な機能だとすれば、白井の「円筒絵画」はそれを円筒状に整えることで対象の再現性と無限性を同時に倍増させてみせた。無邪気な具象絵画が全盛の時代にあって、「平面」ないしは「絵画」という形式をオーバーホールしながら再構築する仕事は、今以上に評価されるべきである。
2012/01/19(木)(福住廉)
HOWARD WEITZMAN PHOTO EXHIBITION
会期:2012/01/18~2012/01/31
銀座ニコンサロン[東京都]
東京在住のハワード・ワイツマンの写真展。渋谷を行き交う人びとを写したモノクロのポートレイト50点あまりを発表した。ほとんどの写真は、いわゆるギャルの奇形的な風貌をとらえており、それらをていねいに見ていくと、写真家の視線が立体的に造形化された髪型や人工的に倍増されたまつ毛に注がれていることがよくわかる。彼女たちはいずれも無表情であり、それゆえ顔面の筋肉が一様に下がっているにもかかわらず、まつ毛はどこまでも上昇するかのような異常な生命力を誇っているところに、現在の都市文化の矛盾が如実に表わされているような気がした。すなわち、自然としての身体に生命力が乏しい反面、人工的な身体に瑞々しい生命力があふれているというねじれ。もしかしたら現在の都市生活者はすでに死んでいるのではないか。そんな想像を繰り広げたくなる写真である。
2012/01/19(木)(福住廉)
入江明日香 展
会期:2012/01/10~2012/01/21
シロタ画廊[東京都]
銅版画のコラージュで知られる入江明日香の個展。鋭い線とたおやかな色によって「少女と四聖獣」を描いたシリーズを発表した。いずれの作品にも描かれているのは、少女と神話的な動物。両者が密着した平面は、一見するとコマとフキダシを外した少女マンガのようだが、余白を絶妙にとらえた画面構成と控えめながらも調和の効いた色彩が、物語から自立した平面作品として成立させている。とはいえ、入江による今回の作品の醍醐味は、平面作品の自立性というより、むしろ神話的な世界を想像的に描いたところにあると思う。それを描いてきたのはマンガであり、美術はむしろ等閑視しがちだったことを思えば、動物と人間が交換可能であるような神話世界をまっとうに描いた点は評価されるべきである。「人間」の根拠が疑われている昨今、それを改めて規定するには神話世界に立ち戻るほかない。であればこそ、神話的動物と人間の関係が一対一である現状から、それらがより複雑に入り乱れる混合的な画面を待望したい。
2012/01/19(木)(福住廉)
プレビュー:解剖と変容:プルニー&ゼマーンコヴァー チェコ、アール・ブリュットの巨匠
会期:2012/02/04~2012/03/25
兵庫県立美術館[兵庫県]
パリのabcdの所蔵品により、2人のチェコ人アール・ブリュット作家を紹介する展覧会。ルボシュ・プルニー(1961〜)は、小学校卒業後さまざまな職を経験し、その傍らで幼い頃から興味があった解剖図を思わせる身体の絵を描くようになった。本展では絵画30点などを紹介する。アンナ・ゼマーンコヴァー(1908〜1986)は、25歳で結婚して4人の子どもを育てた後、子離れによる不安の代償として絵を描き始めた。1960年代前半から最晩年までの60作品を展覧する。また、abcdの創立者ブリュノ・ドゥシャムが2009年に制作した長編ドキュメンタリー映画『天空の赤』上映と、そこに登場する6作家の作品展も。
2012/01/20(金)(小吹隆文)
プレビュー:ノモトヒロヒト写真展 LIFE
会期:2012/02/03~2012/02/25
TEZUKAYAMA GALLERY[大阪府]
大阪在住の写真家ノモトヒロヒトが、東日本大震災の津波の被災地を取材した2つの新作シリーズを発表する。ひとつは《Facade》で、被災地の建物を真正面から客観的に撮影したもの。もうひとつは《Debris》で、被災地で大量に発生し、素材ごとに分類された瓦礫を撮影し、コンピューター上で繋ぎ合わせたものだ。両シリーズに共通するのは、事象から距離を置き、冷静な観察者に徹した写真家の視線である。震災で失われた人間の営み=LIFEが永遠に記憶されるべきものであることを、ノモトの新作は示している。
2012/01/20(金)(小吹隆文)